2.記憶

2.記憶

いつ誰がここに来てもおかしくはない。拘束されてしまえば家族の救出は疎か、二度と自由に行動することすらできなくなる可能性もある。だが事件コンサルタントとして、殺人事件の被害者を無視し、自身の利益だけを優先して行動することは彼女の信念に反することだ。事件の解決につながりそうな情報を何とか短時間で見つけ出しこの場を速やかに去りたい。やるべきことはほんの数秒間で明確になり、直後に周辺の調査を開始した。


まずはスイッチを探して電気をつけると、白人で髪は明るい茶色、鼻が高く身長は185cm前後、ライトグレーのスーツを身に纏う初老の男性と見られる人物が息絶えていた。ソナタが手に持つ、凶器と思われる刃物は刃渡り30cmほどの牛刀で、被害者の傷口と刃の形状は一致していそうだ。血飛沫はあたりに散らばっており犯人は相当な返り血を浴びていると推測される。ここは50㎡ほどの長方形の部屋で、鏡と化粧台が設置されていること、弦楽器や楽譜が確認できたことから、音楽家などの演者が本番前の控え室として使用する楽屋と考えられる。


5分ほど調査をしているとハイヒールと思われる足音が聞こえてきた。どうやらそろそろ時間切れのようだ。凶器の特長や現場の状況は記憶したため、可能な限りでソナタ自身の痕跡を消し、あとは犯人の特定につながりそうな遺留品の"内容"をそのまま持ち出すこととする。室内にあるバッグには、スマホや手帳、財布、鍵、ハンカチなどが入っていたがスマホは顔認証のためロック解除はできない。財布に入っている身分証からこのバッグはおそらく被害者の私物であり、氏名や住所などの個人情報を入手できた。さらには、謎のメモ書きがありそこにはこう書かれていた。


"pfpp fff ppff fppf fppf"


そして、手帳をパラパラと捲り記載されている"内容"を見たまま脳に記録していく。これは"上"の人材開発の一環により後天的に得られたソナタの能力である。

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