12.不審

12.不審

 そうでしたか。それはお辛いですね…。もし可能ならその台本のコピーをとらせていただきたいのですが。


 …御社の上の方から、できるだけ協力するよう言われているからね。仕方ない。


 ありがとうございます。車で待たせている者に作業させますので、こちらへ呼んでも差し支えないでしょうか。


 ああ。どうぞ。


台本をタブレットでスキャンしている間、事件にまつわることを雑談や世間話をしながら一通り確認したが、特に気になる情報はなかった。


 本日はありがとうございました。最後に…私も朝食のシリアルが大好きなんです。毎朝欠かさずに食べられているんですね。


 ははは。うちの執事から聞いたんだね。うん、ここ何年も欠かしたことはないよ。出先にも持っていくくらいさ。


 ルーティンは心を落ち着かせますもんね。じゃあ事故の翌日も?


 さっき言ったかも知れないが、その日は一晩中妻と警察にいてね。まだ薄暗い早朝に着替えとかを取りに私だけ一旦帰宅して、腹が減ってたからすぐに食べたよ。


 いいですね。私も帰ったら食べようと思います!


ここまで話を聞いた所感としては、おかしな点が多いということ。まず、自分の妻が昔の同僚を車で轢いた事故がつい最近起きて、その内容について問われているにも関わらず、受け答えはまるで他人事のようだ。本人としては、あくまでも事故として完結しており、割り切っているのだろうか。次に、その渦中の台本については、"上"から送られた資料に記載はなかった。これまで重要な事実は漏れなく情報共有されていたのだが明らかに違和感がある。そして何より…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る