2.諂諛
2.諂諛
おお、ソナタ。おはよう。
おはよう。
娘たちはいつもどおり特に反応がない。黙々と食事を続けている。どこかで聞いたことがある言い回しだが、夫は七分袖のジャケットにTシャツとハーフパンツ、娘たちはシンプルなワンピース、3人は全身をまっさらな白色で揃えている。さらに、肩まであるストレートの金髪と金色の瞳も共通だ。これもいつもどおりの光景なのだが、我が家族ながら非常に美しい。
その髪型もキュートだね。
朝から爽やかすぎる笑顔を惜しみなく撒き散らす。娘たちの塩対応とは真逆である。塩対応の対義語は神対応なのか。それはよく分からないし、夫から妻への神対応という表現も、使い方があってるのかは不明である。正しい言葉遣いの話はさておき、夫婦間の愛情は問題なさそうだ。ただし、親子間の愛情は、これからもっと育んでいく必要がある。子連れ再婚の家庭はどこも悩むのかも知れない。できる限りコミュニケーションを取ることを心がけてはいるし、愛も誠意も思いやりも心配りも目一杯注いでるはずなのだが…。ぼんやりと毎日似たような思考を巡らせながら日課のバナナと小松菜のスムージーを作り、同じテーブルを囲みながらゆっくりと飲み干す。まだ会話が覚束ないバルカはさておき、メライとは最低でも朝一言は交わすことを決めている。
今日からしばらく私は仕事でネパールに行ってくるわ。メライはこないだネパール語をマスターしたみたいだから、困ったら電話してもいいかしら。
ムスっとした表情がさらに強張る。口の中に入っていたパンをしっかり咀嚼して飲み込むと、目を合わせず、だが力強く声を発した。
嫌味?貴女は何十ヶ国語も話せるくせに。
このままでは、いつもどおり朝の団欒の空気が淀んでしまう。かねてより状況の改善方法を考えていたので、透かさず割って入った。
ははは。メライだってソナタに追いつく勢いでどんどんいろんな言葉を習得してるじゃないか。このままのペースなら、ソナタも僕もすぐに追い越されるよ。
そうね!さすがメライ。しかも言葉だけじゃなくて、理系も得意なのね。だって、世界最年少で数学オリンピック代表に選ばれたんだから♫
…ふん。
おそらく人類史上トップクラスの天才なのだが、このなんとも言えないはにかんだ顔は子供らしさがあっていじらしい。それにしても、両親が幼い我が子をここまでヨイショする光景はなかなか見られない。だか、長女の機嫌が家全体の空気そのものなのだから、少しでもみんなが仲良く過ごしやすい環境を作りたい。そんな一心なのだろう。ただでさえ、仕事柄ずっと緊迫した状況下置かれているので、せめて我が家には安寧を求めたいはずだ。
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