ロンドの旅 Part2ソナタの旅
金賀こう
Chap1ルンビニの事件
1.悲願
1.悲願
朝起きるとすぐ異変に気付いた。自慢の黒髪ロングストレートがベリーショートになっている。縮毛矯正も期限切れでクシャクシャだ。だが、程なくしてそれは自身の決断だったことを思い出す。昨日、長年伸ばし続けた髪と訣別したのだ。それは決して後戻りをしないという、彼女の決意表明であった。一見穏やかにも感じ取れる日常は、少しずつ蝕まれていて、音を立てて崩れ落ちるのは時間の問題だ。いかなる分野においても絶対的に優れている自信はあるのだが、幸せを掴むセンスが欠如しているのか?まあ、それを感じる理由はまさに三者三様、十人十色、百人百葉なので一概には言えない。
こんな思いを巡らせながら、家族の元へと急ぐ。今日も自分が最後だ。いつものようにトイレと歯磨きを済ませたら、団欒の時間が待っている。夫と義理の娘たちは着替えるのだが、自分は寝巻きのまま朝食を摂る。生まれ育った環境で馴染んだ習慣は中々変わらない。そもそもどちらが良いとか悪いとか、誰にも分からないことだ。ドアを開けたとき目に入った光景は想像と寸分違わない。みな定位置に腰をかけ、各々の時間を過ごしている。
いつもと少し違うこともあった。今日からしばらくこの暮らしから離れるということだ。とはいえ、そんなに大袈裟なことではない。捜査のため長期出張に出るだけのこと。早く解決すれば、その分早く帰ることもできる。今回は久しぶりに娘たちを連れて行かず一人きりの旅。それにしても、実子ではないものの、本当に誇れる子供たちだ。自身も神の子などと持て囃されたが、その自分と同等、いやそれ以上の素質を持ち合わせている。これも"上"による特別な教育の賜物なのだろうか。なにしろ、家族に会えないことは純粋に寂しい。だから、本当の夫と、愛する息子を取り戻し、あの頃のように笑顔が絶えない5人の生活を再び手に入れる。そう決めたのだ。
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