決着
赤バイ隊という部隊を知っているだろうか。
消防が創設したバイク部隊だ。
渋滞に巻き込まれず、消防車に先行して現場に急行。救助と情報収集にあたる部隊だ。
そして、可能であれば初期消火をするのだが、バイクのために積載量に限度があり大量の水を運べないし隊員一人では持ち運べない。
そこで考えられたのが、圧縮空気泡消火システムだ。
少量の水でも化学薬剤で泡状にして火を包み込み消火する。
一人の隊員でも扱える重量で充填されている水の量に比べて大きな炎を簡単に消せる有用な装備だ。
個人携行のため限界はあるが、かなり有用な装備だ。
その消化器を中身の水を祝福儀礼で作り出した聖水に替えてダイナ達冒険者は使用していた。
効果で少量しかない聖水を小瓶から無闇にばらまくより、少量で広範囲に散布されしかも泡で纏わり付く。
ダイナが先ほどグールに使ったのは、携帯性を重視し小型に改造されたハンドガンタイプだ。
元となった圧縮空気泡消火システム ポータブルCAFS<武蔵>を使えば、全身くまなく泡で覆い、吸血鬼の身体を蝕むことが出来る。
「ぐああああっっっ」
体中を泡で覆われ、ブラドは苦しむ。
両腕で頭を抱え込み、膝を突き、大きくのけぞる。
そのため心臓に入れた核が露出。
ダイナが二〇式小銃改二で狙い、撃ち抜いた。
「ぐあっ」
撃ち抜かれた核は霧消し、ブラドの身体強化が途切れた。
更に聖水入りの泡の効果が、増大し、急速にブラドを蝕み、身体を支えることさえ出来なくなり、地面に倒れた。
ダイナは銃口をブラドに向けて警戒しつつ接近する。
「トドメだ」
そして氏近居値まで行き、引き金を引こうとした。
「待ちなさい」
だがエリザベートが止める。
「それは私の役目です。一族の不始末は、代行の私が果たさなければ」
「……どうぞ」
ダイナはエリザベートに譲った。
警戒は解かず、銃口をブラドに向けたままだったが、エリザベートを通した。
「申し訳ありません。叔父上様。お命を頂戴いたします」
エリザベートの手が伸び、ブラドの身体を貫いた。
その手には心臓が握られており、握りつぶし、ブラドの身体は徐々に崩壊し、塵となって消えていった。
「お疲れ様です」
「手出し無用と言ったはずよ」
ダイナの言葉にエリザベートは非難するように言う。
ブラドを倒すとき、手助けしたのを責めているのだろう
「戦友の手助けぐらい構わないだろう」
ダイナは、恥ずかしそうに言う。
自分のガラではない事を言っているのは分かっている。
しかし、言わずには居られなかった。
「まあ、そういうことにしておきましょう」
口元にエリザベートは笑みを浮かべたがすぐに弱々しいものに変わった。
ブラドにトドメを刺すとき、ブラドの身体に付いていた聖水入りの泡が付着しエリザベートを蝕んでいた。
「無茶をして」
ダイナがエリザベートの身体を抱えると共に、アイリが、駆け寄ってきてぬれタオルでエリザベートの腕を覆い付着した成分を吸収する。
床に落ちた血を処理するのと同じで、擦ったら広がるため腕に押しつけて成分をタオルに吸着させるだけで処理する。
何とか応急処置をしたが、心身共に疲弊したエリザベートは立ち上がれそうにない。
「残った吸血鬼は、始末しておく」
「……お願いするわ」
グールとなった吸血鬼達を処理して欲しかった。
最早元に戻すことは出来ないだろう。
体中を聖水が蝕み、回復できる見込みもない。
ならば、ひと思いにトドメを刺すのが慈悲だろう。
ダイナは、吸血鬼に近づくと銃を向ける。
そして、穏やかな表情で別れの言葉を告げる
「ありがとう、我が愛しき敵。俺達が自身の意志で戦えるようになったのはお前たち、吸血鬼という敵がいたからだ。俺たちを戦えるようにしてくれてありがとう。そして、さようなら」
ダイナは引き金を引いた。
言っていることは、本心だった。
吸血鬼という敵を相手に某作品の影響があったとは言え、臆病者だった自分が自分の意志で戦える様になったきっかけは吸血鬼を相手にしたからだった。
自分の意志を表に、現実世界に叫べるようになったのは彼らのお陰だった。
その意味で吸血鬼はダイナの恩人だ。
今でもその思いは変わらず感謝の言葉を告げたいと思うくらいだ。
「その格好つけは相変わらずね。恥ずかしくないの」
だがエリザベートの憎まれ口は相変わらずだった。
浴びせられた言葉にダイナぶち切れた。
「このわがままお嬢様吸血鬼! 悪いのはこの口か! この口か! にんにく料理詰め込んで一生喋らなくしてやろうか」
「ぎゃあ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
ダイナが本気で怒っていることを直感で理解したエリザベートは、弱った身体をむち打ち必死に謝る。
本当にニンニクが苦手なのだ。
あの強烈な刺激物は吸血鬼にとって毒なのだ。
「うわーん、カリナン助けて!」
「ダイナ、一寸やりすぎだよ」
「あーようやく心を開いてきたのに」
ダイナの剣幕にエリザベートはカリナンの胸元に泣いて逃げていき、その様子を見ていたアイリは呆れた。
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