エリザベートの覚醒

「待って!」


 だが、ブラドとダイナが激突する寸前、止めたのはエリザベートだった。


「私が戦うわ」

「前に出てくるんじゃない。これは俺達の仕事だ」


 一度足を止めたダイナだが、エリザベートを睨み付けて拒絶する。

 しかし、エリザベートは退かない。


「いいえ、これは吸血鬼の同族同士の内紛よ。身内の事に人間の手を借りることはないわ」

「……分かったよ」

 

 エリザベートの言葉にダイナーは引き下がり、アイリの元に戻る。


「いいのダイナ。エリザベートがケガしたら」

「確かに俺たちの依頼は警護だ。だが、生き方まで指示することは出来ない。それに」

「それに?」

「エリザベートなら大丈夫だ」


 口元に笑みを浮かべながら肩越しにダイナはエリザベートを見る。

 先ほどまでの怯える様子は影を潜め、叔父である、いや敵であるブラドと対峙する。


「良いのか? 小娘風情が私を相手に勝てるというのか。人間共の方がまだ強いぞ」

「負け犬がほざくな」

「何……」


 嘲笑を浮かべてブラドをエリザベートは睨み、いや見下して言った。


「私を負け犬だと」

「ええ、負け犬でしょう。自力では立ち行かなくなり、人間に助けを求めるにも自尊心から正面から相手に出来ず。そこで私を生贄に、策を弄して、人間を嵌めてようやく話し合いの席に赴く。そんな吸血鬼の風上にも置けない恥知らずに私は負けない」


 何より自分より弱いはずのダイナがブラドと戦っている事に、しかも打撃を与えていることに驚き、悔しい思いをした。

 確かに様々な装備を投入して戦っている。

 だが、戦い勝とうとする意思の表れだ。

 そんなダイナに負けっぱなしになるのが、許せない。


「吸血鬼として、吸血鬼族の名誉の為にも、あなたを打ち倒す」


 何より自分を蔑ろにして、交渉材料のために殺そうという相手に、一矢報いぬまま殺されるのが、いや、自分に害をなそうとした奴が、ノウノウと生きているのが許せない。


「私を殺そうとしたことを、死んで後悔させてやる」

「やれるものならやってみよ!」


 宣言するとエリザベートとブラドは戦いを始めた。

 先ほどの怯えは無くなり、エリザベートは優位に戦う。

 流石に先の戦いに参戦し、生き残っただけにエリザベートは戦い方を理解しており、上手くいっている。

 ダイナ達への怯えが去れば、自身の能力を十全に発揮しブラドと互角に戦うことが出来る。

 しかもブラドはダイナが負わせた傷もあり動きが鈍く、徐々にエリザベートが優位に立つ。


「はっ」

「ぐはっ」


 エリザベートの一撃が決まり、ブラドは大きく後退する。


「さあ、叔父上、お覚悟を」


 エリザベートの切れ長の赤い瞳が、ブラドを貫く。


「ならば、奥の手だ!」


 先ほど部下に使った核をブラドは取り出した。

 エリザベートは、何処に撃ち込まれるのか、と周囲を警戒したが、ブラドが撃ち込んだのは自分自身だった。


「がはっ」

「なっ」


 苦しむ姿を見て一瞬エリザベートは戸惑うが、すぐに吹き飛んだ。


「ぐふふふうう」


 禍々しい気持ち悪い声を漏らしながらブラドは気色の悪い笑みを浮かべエリザベートを見る。


「はははは! 素晴らしいぞ! 力が漲ってきている!」

「この愚か者が!」


 吸血鬼が自らの力を頼りにせず、妖しげな物を使って強くなるなど言語道断だった。

 怒りでエリザベートはブラドに抜き手を放つ。

 だが、ブラドは素早く腕でガードし、エリザベートの抜き手を止める。


「効かぬぞ」

「きゃあっ」


 抜き手が突き刺さった腕を振り、エリザベートを払いのける。

 吹き飛ばされたエリザベートは壁に叩き付けられ、悲鳴を上げる。


「ぐはははっ、どうした小娘! 先ほどまでの威勢は何処へ行った!」


 ブラドが下劣な視線をエリザベートに向けているとき、ダイナとアイリが動いた。

 アイリは車のトランクから、パイプを繋げて組み立てたような銃を取り出し、ブラドに向け、引き金を引いた。


「ぐおおおっっ」


 余計ようとしたが高速で広がる泡の前に、逃れる事は出来なかった。

 泡に包まれた瞬間、含まれたいた聖水の成分がブラドの身体を蝕む


「圧縮空気泡消火システム ポータブルCAFS<武蔵>。水を聖水にして薬剤と混ぜ合わせることで吸血鬼退治用に改造した装備よ」

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