シルバーマーキュリー
「よく言った! カリナン!」
エリザベートを庇おうとするカリナンに声を上げたダイナは間に割り込んだ。
そして拳銃を向け、銃弾を放つ。
弾丸は吸血鬼の身体に触れると十字状に溝を刻まれた部分から割け花のように広がり周囲の傷を大きくしていく。
同時に、内部に仕込まれた水銀が急激な減速に対して、慣性の法則に従い、前に出て行き、銀の弾殻を突き破り、重い滴が体細胞を突き破っていく。
その衝撃は、卓越した身体能力を持つ吸血鬼の肉体でも押さえる事が出来ず、背中から爆発するように肉体を穿つ。
「馬鹿な! 手練れを連れてきたのだぞ! どうしてたやすく倒せる!」
「こいつは、タダの弾じゃないぞ」
驚愕するブラドにダイナは、静かに言った。
「祝福儀礼済み水銀を充填した祝福儀礼済み純銀弾殻に十字を刻み込んだ水銀弾頭。装薬マーベラス化学薬筒NNA13。口径九ミリの対吸血鬼用特殊弾頭シルバーマーキュリー。パーフェクトだ勲」
ダイナが銃で制圧している間に、隙を見てアイリが手榴弾を投げた。
「隠れろ!」
タイミングを合わせカリナンを引っ張り、エリザベート共々、物陰に隠れる。
四人が隠れた瞬間、激しい爆発音が響き渡り、吸血鬼達の悲鳴が聞こえる。
「があああっっっ」
「ぎゃあああああっっ」
無敵のハズの吸血鬼達から悲鳴が上がる。
「馬鹿な、あんな花火で無敵の吸血鬼が倒されるなど」
「ただの花火じゃないぜ」
ダイナは物陰から立ち上がった言った。
「祝福儀礼済みの銀製ボールベアリングを詰め込んだ特製手榴弾だ。吸血鬼相手になる事も想定して持ってきた。値は張ったがな、お前の言うとおり強い吸血鬼の前へ、弱い人間が何の手立てもなしにのこのこ前に出てくるわけないだろう」
ダイナは、壮絶な笑みを浮かべながらブラドに言う。
自衛隊が多大な犠牲を払いながらも吸血鬼を倒すために作り上げた武器の数々だ。
「さあ、これでおしまいか」
「くっ、ならば奥の手だ!」
ブラドは懐から何か輝くものを種のようなものを取り出した。
自分に投げつけてくるのを警戒していたダイナだったがブラドは、配下の亡骸に投げつけた。
すると配下が立ち上がった。
ダイナは再び拳銃を向け発砲し、倒そうとする。
「ぐおおおおっっ」
だが、身体を吹き飛ばしても、次々と迫ってくる。
「効いていない!」
弾を身体に撃ち込んできても怯む様子も無く近づく。
いくら吸血鬼でも撃たれたら悲鳴を上げたり、身体が竦む動作を見せる。
それが一切無くダイナに向かってくる。
「グール化している! アンデッドだ! 気をつけろ!」
ヘッドショットか心臓に撃ち込み倒そうとしたが、なおもやってくる。
「こいつらタダのグールじゃない! うおっ!」
襲撃されたダイナは路地裏に追い込まれる。
「ダイナ! くっ!」
アイリは助けるために向かいたかったがエリザベートの側に寄ってきたため、守らなければならない。
MP5サブマシンガンを取りだし、迫ってくるアンデッドに銃撃を浴びせる。
身体の一部が、腕や足がもがれても立ち上がり、歩いて、あるいは這ってアイリに向かってくる。
ガキンッ
「弾切れっ」
マガジンが空荷なり交換しようとするがアンデッドは、その隙を逃さずアイリに手を伸ばし襲い掛かる。
「うおおおっ」
「がはっ」
だが、アイリはサブマシンガンのストックでアンデッドの顔を殴打し払いのける。
「がああ」
「ぐはっ」
しかし背後から覆い被さり、地面に押さえつけようとする。
だがアイリは肘鉄をアンデッドに食らわせ、振り払い立ち上がる。
「はあ、はあ、はあ」
「くく、絶体絶命のようだな人間」
アイリが、鼻血を垂らし肩で大きく息をする様子を見てブラドは嗤う。
「そこまでだ、人間諦めろ」
「……諦めろですって」
アイリは、俯いていた顔をブラドに向け、睨み付ける。
「弱いゴミが良いそうな台詞ね。弱さに耐えられない弱い奴が言う台詞よ。そんな競りを履く奴なんかに私はまけない」
アイリはサブマシンガンを構えて叫んだ。
「かかってこい化け物! 相手になってやる!」
「……やれ!」
ブラドの命令でアンデッドが一斉にアイリに襲い掛かっていった。
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