吸血鬼と(一部の)自衛隊

「あの、どういうことですか」


 カリナンはダイナとエリザベートのやりとりに戸惑った。

 そしてエリザベートに尋ねた


「僕たちが怖いのですか?」

「人間が、自衛隊が、怖いのよ。思いっきり攻撃してくるでしょう」

「戦争だったのですから当たり前でしょ」

「私が戦った自衛隊の場合、常軌を逸しているのよ!」


 エリザベートは喚きながら言う。


「射撃も十分に強いのに肉弾戦になったら、むしろ喜々として応戦するんだから。腕をもがれようが足をちぎられようが、むしろ吸血鬼とみると立ち上がってきて挑発してくるのよ! 中には死にたくねえ、と言いながら顔は嬉々として叫ぶ奴もいるし、それに対して俺だって死にたくはねーよ、ってお返しする姿はまるで演劇を楽しむ見たいに言っているのよ。そんなの異常よ!」

「うわあ……」


 エリザベートの言葉はにわかには信じられなかったが、先ほどのダイナの戦い方を思い出して納得した。

 先ほど吸血鬼と戦ったときに、ダイナは芝居がかった調子で吸血鬼に迫った。

 普段は必要最小限の動きだけで攻撃するのだが、あのときは違った。

 やたらと煽るように、何かの作品の台詞のように朗々と言って、迫っていった。

 あんなことをされたら恐怖でしかない。


「初めのうちはまだ良かったわよ。勝ち目があるんだから。だけど、短い間だったわ。すぐに、あの短期間でおおくの対吸血鬼兵器を作り上げて向かってきたのよ。銀の弾丸を大量生産したり、銀の玉を飛ばす爆薬を作ったり。それを大量に投入してきて、一体どれだけの仲間が殺されたと思ってるの」


 エリザベートに言われてダイナはバツの悪い思いをしながら聞いた。

 実際、吸血鬼と遭遇して当初こそ自衛隊は大損害を受けたが、むしろ隊員たちは速やかに適応した。

 絶対某漫画のせいだ。

 だが、そのおかげで対処できた。

 吸血鬼に対する対処が迅速に行われ各地で漫画のシーンを再現するような行為が頻発した。


「トドメに祝福儀礼やらエンチャントを付与して確実に殺しに来たじゃないの。お陰で私たち吸血鬼は激減よ。種としての存続さえ危ぶまれるくらい減ったのよ!」


 異世界の人間たちと出会い協力するようになってからは、教会の加護やエンチャントが対吸血鬼兵器に行われ、さらにキルレシオが向上した。


「もう本当に恐ろしいったらありわしないあわ」

「今ではそんなことありませんよ」

「どこがよ!」


 とってつけたように答えたダイナにエリザベートは叫ぶ。


「あ、すいません」

「ひっ」


 が、ダイナに視線を向けられるとエリザベートは怯んだ。

 人間というか、自衛隊、ある種の作品のコアなファンによる戦闘を、先ほどの戦い方を見て思い出しており、恐怖を抱いていた。


「弱ったな」


 カリナンに抱きつき怯えるエリザベートにダイナはほとほと困った。

 まさか、護衛の自分たちに恐怖を抱いているとは思わなかったからだ。


「どうしたものかな」


 ダイナは悩んだが、悩んでいる時間は無かった。


「見つけたぞ!」


 大声と共にやって来たのは、エリザベートの叔父ブラドだった。

 ダイナ達の乗った車のフロントに降りてくる。


「うおっ」

「きゃあっ」


 車は大破し、バランスを崩して路肩にぶつかり止まる。

 ダイナ達は吹き飛んだドアから外へ出て行くが、そこにはブラドと配下が待ち構えていた。


「くくくっ……人間の護衛のお陰で、しぶとく生き残っているようだなエリザベート。だが、これで最後だ」

「あ、ああ……」


 エリザベートは、叔父に助けを求めようとした。

 だが、すぐに自分を狙っている事を思い出し、恐怖の元自衛隊員であるアイリとダイナに挟まれ、パニックに陥った。


「そんな事させません!」


 抱きついてくるエリザベートを庇いながらカリナンは叫んだ。


「武器が無ければ何も出来ない弱い人間共に何が出来るというのだ」

「依頼を受けた冒険者です。冒険者は必ず依頼を達成します。それよりどうして姪御さんを殺そうとするのですか」

「人間に縋るような弱い吸血鬼などいらん」

「エリザベートさんは弱くありません! 怖い相手でも吸血鬼皆のために立ち向かっていく強い人です! その人を必ず守ります!」

「ふん! その大口が何処まで叩ける! やれ!」


 次の瞬間、吸血鬼達がダイナ達に襲いかかってきた。

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