化け物

「ぐはっ」

「ぎゃっ」


 銃声が轟き複数の悲鳴が響く。


「え?」


 エリザベートは驚いた。

 銃撃を受けたのは、襲撃者達の方だったからだ。


「何が起きたんだ!」


 ペーターが驚いていると、穴だらけの筒が放り込まれた。

 すぐに爆発し轟音と閃光が部屋を包み込む。


「ぎゃああっっ」


 配下が悲鳴を上げた。

 感覚が敏感な吸血鬼にとってスタングレネードの光りと音は絶えがたい激痛だ。

 彼らが怯んだところへ、一人の人間が扉を蹴り破って入ってきて、銃撃を浴びせる。

 制圧射撃を浴びせつつ、牽制し、エリザベートから離すと、もう一人が駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか!」

「カリナン……」


 エリザベートに駆け寄ってきたのはカリナンだった。

 もっと話そうとしたがスタングレネードの衝撃で意識が朦朧としており、これ以上話せなかった。


「歩けます」

「……」


 話すことも難しかったが、カリナンはすぐに読み取り、エリザベートを抱え上げ部屋の外に出て行く。

 ダイナはそれを見届けると、追撃を防ぐべく手榴弾を投げ込み、追いかけた。

 爆発音の直後、ダイナとカリナンは外に出て行った。


「あとはアイリと合流して、離脱だ」

「させませんよ!」


 だが、ペーターが、現れ立ち塞がる。


「お嬢様に生きていては困りますからね。このまま生きて逃がすわけにはいきませんから」

「ひっ」


 吸血鬼特有の邪悪な笑みを浮かべ迫ってきてカリナンが怯む。

 しかし、ダイナは、躊躇なくサブマシンガンを放ち、牽制する。

 無数の銃弾が命中するが、ペーターは笑みを浮かべるだけだ。


「我々に鉛の銃弾など無駄です」

「知ってるよ」


 ダイナは応じた直後、武器をリボルバーに取り替えた。

 撃ち出された銃弾はペーターの右肩に飛び込み、炸裂。

 大きな孔を穿ち右腕が千切れた。


「なっ」


 今までに無いダメージにペーターは驚く。


「な、なぜ」

「正教会の祝福儀礼済みの水銀と銀を使った水銀弾だ。大概の吸血鬼はこれを食らったら、無事じゃ済まない」


そういいつつダイナはさらに一発、ペーターの足に向かって放った。


「ぎゃあっ」

「急所は外してある。どうした、早く身体を再構築して立て、使い魔を召喚しろ」


 地面に倒れるペーターに銃を構えながらダイナは近づく。


「戦いはまだ始まったばかりだぞ。さあ来いよ吸血鬼。ハリー……ハリーハリーッ。ハリハリハリーッ!」

「よ、寄るな化け物!」


 近づいてくるダイナにペーターは叫んだ。


「……化け物だと!」


 ペーターの悪態にダイナはお怒りで歪めた。


「貴様も、その程度の犬と言うことか」

「黙れ人間! こんなことをしてただで済むと思うな」

「喧しい!」


 ダイナは叫ぶペーターに怒鳴り散らす。


「所詮、貴様は狗のようだな。ならば、ここでくたばって狗に喰われてしまえ」


 ダイナは銃口をペーターに向け、眉間に狙いを定めた。

 だが丁度その時、車が走ってきて、ペーターを跳ね飛ばした。


「ぐはっ」

「早く乗って!」


 吹き飛ばされたペーターが悲鳴を上げる間に、車を運転してきたアイリがダイナ達に乗り込むよう言う。

 狙撃地点を制圧した後、そこからダイナ達を援護。

 突入を助けると、車を運転して駆けつけてきてくれたのだ。


「ふんっ」


 ダイナは遠くに飛ばされたペーターを一瞥すると鼻を鳴らし車のドアを開けた。


「早く乗れ」

「はい」


 ダイナに促され、カリナンは、エリザベートを抱えて車に乗り込む。

 続いてダイナも乗り込み、ドアが閉まるとアイリは車を急発進させた。


「何とか、振り切ったようね」


 バックミラーを確認しながらアイリは言う。

 車程度なら吸血鬼は追いついてこられる。

 追撃が内のは振り切った証拠だ。


「一安心かな」

「あの、エリザベートさんが怖がっていますけど」

「突然身内に襲撃されてパニックになっているのかな」

「いえ、震えだしたのは、ダイナがあの吸血鬼を痛ぶっていたときですよ」


 ダイナが、邪悪な笑みを浮かべて攻撃を加え始めるとエリザベートが震えだした。

 あの雰囲気はカリナンも怖かったが、エリザベートの怯え方は尋常ではなかった。

 今も震えて、両腕で身体を抱きしめている。


「大丈夫か」

「ひっ」


 ダイナが声をかけるとエリザベートは悲鳴を上げた。


「ここで話して貰おうか」

「ダイナ」


 カリナンが抗議の声を上げるがダイナは構わなかった。


「カリナンはともかく、俺やアイリを避けるようなそぶりをしているよな」


 初めの頃から、当たりが強かった。

 人間を毛嫌いしている事も分かった。

 だが、それだけではなかった。

 その根源は怯え、人間に対する恐怖だった。

 怯えを見せまいとして、なにより恐怖に打ち勝とうとして必要以上に強気の姿勢を見せていたのだ。


「何を思おうが構わないけど、警護の支障になるんだ。どうして怯えているのか話してくれないか」


 ダイナは毅然と問いかけた。

 エリザベートは沈黙したままだったが、やがてぽつりと答えた。


「……怖いのよ」

「俺たちが?」

「いいえ、自衛隊が」

「戦ったからか? それは仕方ないだろう」

「それだったらまだ良かったわ。あなた達は異常よ」

「何が」

「さっきみたいに戦争でも私たち吸血鬼を殺してきたでしょう!」

「あーそういやそうだったな」

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