襲撃
護衛が全員食堂に入ったのを確認して、襲撃者は行動を開始した。
仲間がひったくりをして入院させたため無人になっている隣家に侵入。
監視装置がないことは確認済みだった。
布団を手早く担ぎ、準備完了。
合図を送ると仲間が監視装置のハッキングに成功し異常なしの信号のみ発信する。
同時に持っていた布団を塀に被せる。分厚い敷き布団のお陰でガラス片が覆われ、負傷する心配はない。
そのまま屋敷に侵入し、二手に分かれ一方は玄関、もう一方は壁沿いに歩き、護衛が集まる食堂の窓ガラス前まで行く。
玄関から密かに入り込み二階へ行き、待機。
別働隊が食堂を襲撃すると同時に、突入し対象を拉致いや依頼主の元へ送り届ける。
これで完璧だ。
依頼主は、吸血鬼との交渉を求めている。
日本だけに良い思いをさせたくないのだ。
『警報! 一人が動いた。食堂から出て行く』
無人にした隣家の二階で監視していた仲間からの警告に緊張が走る。
自分たちの侵入に気付かれて、対応しようというのか。
『どおやらトイレらしい。他の二人は食事を続けている』
少し安堵しつつ、
玄関前にやって来て仲間が解錠を試みる。
『食堂の方に動きがあった。残った女の一人が窓の近くに向かった』
新たな報告に緊張が走る。
だがここまで来たら実行あるのみだ。
『女の方が何か取り出している。籠みたいだが……って! 手榴弾の束、ぐはっ!』
銃声と共に見張りの声が途絶えた。
「大丈夫か!」
問い返すが応答はない。
その間に、居間の方から連続した爆発音が響いた。
複数の手榴弾が爆発したようだ。
それも外でだ。
『撤退する!』
監視も味方のもう一方もやられたのであれば、作戦は失敗だ。
自分たちの安全を、命を守るためにも撤退した方が良い。
だが、ダイナは逃走を許さなかった。
トイレからの狙撃を終えたダイナは玄関に立ちドア越しに二〇式改二を連射する。
「ぐはっ」
突然の攻撃に玄関前に集まっていたグループは撃たれ、損害が続出する。
「畜生!」
一部が反撃するが、サブマシンガンしか持っていないため、ドアに仕込まれた防弾板を貫通できず、一方的に撃たれ、無力化された。
「クリア!」
「こっちもクリアよ!」
銃声の後、アイリから声が響く。
食堂の外にいた襲撃者を撃退したようだ。
「あなたの勘が当たったわね。警戒しておいて正解だったわ」
隣家の住人がひったくりに遭った時点で警戒していた。
同時に
「カリナン! エリザベートの方はどうだ!」
「大丈夫です」
二階に上がって安全を確認したカリナンから返事が返ってくる。
「ダイナの勘が当たったわね。注意しておいて良かったわ」
秘密にしていた住居なのに贈り物を届けられたこともあって警戒心が上がっていた。
そこへ護衛対象が入った途端、隣家の住人がひったくりに遭い、入院して無人となった事をダイナは不審に思った。
布団も干しっぱなしで塀のガラス片を無力化されることを、戦争中分厚い敷物などでトゲのあるモンスターを攻略したこともあり、容易に想像したからだ。
独立した監視装置を隣家に向けて設置し、動きがあると振動して通報。
すぐにトイレに入り、隠しておいた小銃を取り出して監視を狙撃。
続いて玄関を制圧。
アイリも食堂外の敵を撃破してくれた。
その間にカリナンが上に行き、エリザベートの安全を確保する。
エリザベートが気に入っているカリナンが側に行くのは予め決めていたが後はアドリブだった。死線を共にくぐり抜けた為に出来る。卓越した連係プレーだった。
「ここは危ないな。セーフハウスへ移る」
拠点がバレて襲撃までされては危険だ。住居を移し、エリザベートの安全を確保する必要がある。
「カリナン! エリザベートを連れて車へ! アイリ! カリナンを援護! 俺は車の準備をする」
「分かったわ」
「了解! さあ、行きましょう」
カリナンがエリザベートを連れて車に向かおうとする。
「迎えて襲撃するのが人間のやり口なの」
「そんな事はありません、ただ襲撃を考える悪い人がいるだけです。でも、僕が必ず守りますから」
「……怯えているくせに。それに私より弱いくせに」
相変わらずの憎まれ口をエリザベートは叩いた。
「でも、あなたの護衛が僕の仕事です。ですから車まで付いてきてください」
「……そんなに期待はしないわ」
そう言いつつ、エリザベートは車へ向かおうとする。
襲撃者が倒れている玄関を避け、裏の勝手口から三人は出て行った。
そこへダイナは車を回してきた。
「早く乗ってくれ」
運転席から出てきた周囲を警戒しつつダイナが促す。
三人は後部ドアを開けて入ろうとする、しかしそこへ襲撃者の生き残りが襲撃してきた。
「畜生! 仲間の仇だ!」
本来なら、襲撃が失敗した時点で撤収するべきだが、彼には復讐心しか無かった。
サブマシンガンで銃撃を浴びせてくる。
「ひっ」
「早く入れ!」
防弾板が仕込まれているドアを盾にしたダイナは上着へ手を入れて銃を取り出し、ドアの隙間から襲撃者を狙って撃った。
銃弾は命中し、襲撃者は額に命中、後頭部を吹き飛ばされて後ろに倒れた。
その光景を見てエリザベートは、目を大きく見開き怯えながら呟いた。
「シルバーマーキュリー……」
「え?」
エリザベートが小さく呟いた単語がどういう意味か分からずカリナンは戸惑った。
「出るぞ! 早く乗るんだ!」
「は、はい!」
ダイナにう促されて、カリナンはエリザベートを乗り込ませる。
アイリも乗り込んだのを確認すると、ダイナも運転席に戻り車を出した。
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