現地調査

「嫌われているな。警護は信頼関係が大事なのに」


 部屋を出た後、ダイナは肩を竦めた。

 指示に従って貰わないと危険は避けられないし、万が一の時に指示に従って貰わないと警護は失敗する。

 初めから警戒心むき出して嫌悪を向けられては難しい。


「戦争の時は激戦を繰り広げたし、目の前で親族や当時族長だった祖父が戦死しているのを見ているそうよ」


 異世界に入った自衛隊は門の近くに吸血鬼の領域があった事もあり、彼らと初めから激戦となった。

 最前線に配置されていたダイナとアイリも戦っており、吸血鬼に対して特別な思いや感情がある。

 それは向こうも同じなのだろう。

 少しずつ解決するしかないと思った。


「さて、警護の計画だけど、ここに泊まるんじゃないのか?」


 ダイナはアイリに尋ねた。

 数日続くにしても宿泊施設のある上、警備が厳重な迎賓館を宿泊施設と会談場所にすれば襲撃されやすい移動中を解消する事が出来る。

 だが、その場合、初めから警護など必要は無い。


「訳があって郊外に買った一軒家で生活して貰うわ」

「誰が世話するんだよ」

「私たちよ」

「無理じゃ無いのか?」

「掃除とベットメイキングと食事ぐらいよ。叩き込まれたでしょ」


 自衛隊では整理整頓を良しとする。特にベッドメイキングは、叩き込まれ、シーツのシワは勿論、端を折りたたむときのヨレの数さえ制限以下にしないといけない。

 戦場が少し安定したころ、宿舎で隊長から二人とも叩き込まれていた。


「警護に専念したいが、関係者はなるべく少なくしたいから仕方ないな。で、場所は?」

「ここよ」

「僕たちの学校に近いですね」


 アイリが出した地図を見てカリナンが呟いた。


「ええ、これもあなたたちを雇った理由よ。土地勘があるでしょう」

「まあ、あるけど」


 ダイナは何か恣意的なこと、裏がありそうだと感じ取った。


「じゃあ、打ち合わせを兼ねて現地調査を行いましょうか」

「いいぞ」


 だが、仕事の時間が迫ってきている。会談が終わるまでに一通り、調べないとダメだ。

 家に入った瞬間、前もって潜んでいたテロリストに襲撃されたのでは話にならない。

 出来るだけ早く現地を調べたいが、その前にもやる事は山ほどある。


「移動ルートは?」

「一応三パターンあるわ。出来るだけ多くしようと思うけど」


 移動ルートを複数決めておくことも、重要だ。

 複数設定して、毎日ランダムにルートを変更すれば襲撃者は待ち伏せしにくくなる。

 何より襲撃しやすい場所を避けることが重要だ。

 かといって多く作りすぎると、どのルートを行くか迷うし、見慣れない風景に警戒心が過剰になり疲れる。

 また、ランダムにやると相手のスケジュールを遅らせてしまうことになり、相手に失礼だ。

 更にルートの途中で襲撃を受けた場合の避難場所や、バックアップのチームが駆けつけやすい場所であったり、負傷した場合、治療を受けられる病院に近い方が望ましい。

 その点でもルートは限られてくる。


「ひとまず、現地を調査する為に行きと帰りで別コースをたどろうか」

「そうね」


 ダイナの提案にアイリが同意してその場所へ向かった。

 今度はダイナが運転し、ナビのアシストで目的地に向かった。

 場所は閑静な住宅街の庭付きの一軒家。付属の庭が隣家と離れているため、監視、警戒がし易い。

 ダイナは車を止めると、庭を一周し建物の外見を確認する。


「監視装置は十分か」


 ダイナは配置された監視装置を確かめて安堵した。

 死角はなさそうだった。


「塀の上にガラス片が埋め込まれていますけど」


 周りを見えいたカリナンが言った。


「侵入者を阻止する為だよ。塀を登ろうとすると、ガラス片で手が切れるから登れないようにしているんだ」

「ひえ~」


 ダイナの説明にカリナンは驚いていた。

 家屋の中に入り、間取りを確かめる。


「結構豪華だな」


 異世界とはいえ、族長の血筋のためか豪華な家具が多い。

 あるいは日本政府の援助でもあるのだろうか、一般人のダイナには羨ましい限りだ。


「シェルターもあるんだね」

「最近は標準よ」


 最近の新門市周辺ではモンスターが出没する。

 万が一に備えて内部にシェルター、外からでは開けられない、破壊しにくい強固な部屋を備えている事が多くなってきていた。

 警護をする上でも万が一、屋敷内に侵入されたとき、避難できる場所があると助かる。


「さてと周辺の状況はどうかな」


 建物が大丈夫でもその周辺の家屋に問題があると警護がし難い。

 隣家が空き家だとそこから侵入されやすいし、見下ろせるようなビルがあると監視や狙撃の危険がある。

 幸い、周囲は全て人が入っているようだった。


「あ、ダイナ」


 予め先に現地の情報収集を行わせていた麻衣が合流してきた。


「周囲の状況はどう?」

「大丈夫、同級生の家に提出物を受け取りに行く態を装って調べたから」

「転入してきた人達はいない?」

「三ヶ月以上前からここに住んでいる人達ばかりだよ」


 会談が決まったのは一週間前、それ以前から待ち伏せしていた可能性は低くひとまず安心だ。


「皆大丈夫?」

「うん、ただ、隣に住んでいるおばあさん、ひったくりに遭ってケガして入院中。暫く帰ってこられないみたい」

「ありゃま」


 ひったくりに遭うとはついていない。

 どおりで午後なのに布団が干しっぱなしだった。


「取り込んでおいてあげたいな」

「不法侵入で逮捕されるんじゃない。明後日まで予報だと晴れだし問題ないっしょ」

「そうだけど」

「ダイナ! そろそろ会談が終わる時間よ!」


 ダイナは気になったが、アイリに急かされ、調査を切り上げて、エリザベートのいる迎賓館へ戻った。

 

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