ボディーガードの依頼と危険性

「アイリ」


 かつて戦場で背中を預けた仲間の登場にダイナは戸惑う。


「一般人である麻衣を危険に晒すのは危険だと思うけど」


 ダイナ達が活動するのは特別地域とはいえ日本国内。

 ゲームでなく現実の世界だ。

 冒険者として周りの一般市民に迷惑が掛からないようにしている。

 巻き込まれるのを助ける事はあっても、巻き込むことは許されない。

 冒険者として迎えたカリナンはともかく、拒否した麻衣を呼び込むことにダイナは不快感を露わにした。


「わかっているわよ」


 アイリは、不本意そうに肩を落としながら言う。

 一般人である麻衣を巻き込みたくないことはアイリも理解しているし、アイリも同感だ。

 だが、どうしても無理だった。


「実は、この町にゲートの向こうから要人がやってくるの」

「ドンパチやるよりマシな話だね」


 新門戦争で日本は大きな痛手を受けた。

 圧倒的な戦力を持っていてもそれを運用するには莫大な経費が掛かる。

 例えば陸の王者である戦車はリッターで一キロ走れるか否かというレベルだし、爆弾を落とす戦闘機など飛ばすだけでトン単位の燃料が必要になる。

 他にも消耗品が多く、戦争をするなど割に合わない。

 膨大な資源が眠っていることは向こう側の周辺地域を調べただけでも判明している。

 だが、その僅かな地域を維持するだけでも、元がとれないほど経費が掛かる。

 そこで、門の向こうの勢力と友好関係を結び、貿易で稼ごうというのが日本政府の方針だった。

 そのために異世界の要人が門を通り何人も日本にやって来ていた。


「周辺警戒かい? ルートの安全確認?」

「いいえ、身辺警護を依頼したいの」

「ボディーガードしろだって」


 アイリの依頼にダイナは驚いた。


「でもそういうのはSPの役割だろう」


 SP――警察の警備部警護課は俗に言うで街のお巡りさんとは違い身辺警護を主任務とする。

 スーツに身を包み時に身を挺して護衛対象を守り切るのが任務だ。


「やりたくないね」


 戦争という修羅場をくぐり抜けたダイナだが、自分が生き残るためだ。

 仲間ならともなく、仕事で自分の命を賭けるつもりなどない。


「でも、会談に来てくれる人を守らないと交渉は進展しないんですよね」


 隣にいたカリナンが言う。


「日本と異世界が平和になるのならやるだけの価値があると思います」

「でもな……」


 乗り気になってるカリナンを見てダイナは言いずらそうな顔をする。

 そこへ、アイリが助け船を出す。


「ダイナは、あなたのことを心配しているのよ」

「え? どういうことですか?」


 戸惑うカリナンにアイリは優しく説明する。


「身辺警護は、対象の身を守る事よ。勿論仕事の優先順位は、対象の安全、危険から遠ざける事。けど、狙われるときは狙われる。そして対象を害するときの最大にして最後の壁になる」

「どういうことです?」


 優しくも真剣なアイリの声の響きにカリナンは息をのんだ。


「襲撃者は対象を殺す前に護衛を、ボディーガードを真っ先に倒しに来る事があるの」


 目的達成の障害になる邪魔者を倒せ、それは誰もが考える事だ。

 要人襲撃の時のボディーガードなど、計画達成のためには最優先で排除したい。

 護衛が最初に襲撃される可能性が高く、受ければ自分だけでなくカリナンも危険に巻き込む。

 ダイナが警護依頼を嫌がった理由の一つだ。


「そんな、危険な事をさせるなんて」


 危険性を改めて説明され、ダイナに危険が及ぶことに思い至りカリナンは戸惑った。

 だが、同時に根が優しいため、他の人を危険に晒したくないと思っていたし、色々手助けしてくれたアイリの頼み事を引き受けたくも思っていた。

 カリナンの迷いを見たダイナは小さく溜息を吐きつつ、アイリに尋ねた。


「どうして俺たちなんだ? 人数不足でも警視庁とかから応援が来るだろう」


 本来なら警察のSPが対処するはずだ。

 異世界への門というイレギュラーがあるため半ば政府から独立している新門市の警察は他の警察本部からやっかみを受けている。

 だが、反感はあっても近隣警察、特に警視庁から応援が来てくれるはずだ。

 場合によっては自衛隊の特殊部隊も使える。

 それに、身辺警護を生業とする冒険者も多いし、ダイナの心当たりだけでも何人かいる。

 なのにダイナ達に回ってくることがおかしい。

 それ相応の理由があるとダイナは判断した。


「今度来るのは一六歳の女の子なの」

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