依頼する理由――異世界での経験
日本ではつい最近二十歳から一八歳で成人になったが、明治の前は十二歳から十四歳くらいで元服、成人扱いとなった。
中にはお家事情などにより、より若い年齢、それこそ一桁で成人扱いされることもあった。
SPの場合、どんなに若くても二十代前半。
年齢が合わず支障を来す場合もあるだろう。
その点ほぼ同年代のダイナ達に仕事が回ってくることは納得出来る。
「でも、それだけで代わるわけないだろう」
しかし、要人警護では対象者の家族を守る為に、幼い子供のいる人物の護衛を行う場面もある。
それこそ赤ん坊も護衛対象になるし、これまでも警護した件数は多いはず。
年齢が若いからという理由でダイナ達を雇おうととは思わないはずだ。
「相手が異種族なの」
「なるほど」
ダイナは納得した。
異世界では人間の他に様々な種族が、それも知能を持ち独自の文化文明を発展させてきた種族が。
エルフやドワーフなどのファンタジーでお馴染みの種族などもいる。
厄介なことに日本政府が安全保障のため領域化した地域とその外側にも分布しており境界線の確定や行き来で問題となっている。
これまで島国だった日本に突如国境問題が、それも異世界の異種族相手に起きており、日本政府は手を焼いていた。
多分、今回来るのは、その交渉の要となる人物だ。
だが、残念な事に勤めを果たすべき外務省は機能していない。
ただでさえ、地球の外国との交渉で忙しいため、異種族まで手が回らない。
回そうにも人手が足りないのだ。そもそも、門が開いて一年半しか経っていない。
専門家がすぐに大量に現れるなどあり得ない。
その点、ダイナ達は新門戦争で異種族と交流を持ったことが多く相手を理解している。
最前線で異種族と交流経験のある自衛隊などから隊員が出向の形で送られている例もある。
戦争が終わって自衛隊を辞めた人間にも声をかけて、入省している者も多い。
だが、それでも足りないので人手不足だ。
そのため、ダイナの元にお鉢が回ってきたのだろう。
「交流と言ってもドンパチが多かった気がするけど」
「大丈夫でしょう。向こうで色々取引とかもしてきたし」
戦争をしていたが、毎日、銃を撃っていたわけではない。
むしろ戦闘に備えて準備をする時間の方が多い。
物資の集積、陣地構築、情報収集などやる事はある。
特に情報収集は、未知の世界だけに自分たちの手だけでやるには限界がある。
そこで良く知っているであろう現地の住民、時に異種族相手に話し合いを持つことも多かった。
補給が滞りやすい事もあって――門の通行できる幅が狭く輸送量が限定されていた事もあり、現地調達が必要だったし、陣地の一部――陣地内部は流石に自分たちの手で行ったが、外側の堀や障害物の構築には現地の人の労力が必要だった。
特に堀は重要だった。
小さな侵入者、吸血性の虫や食料を荒らす小動物を伏せぐのに必要だったのだ。
重機を持ち込もうにも足りなかったし、最前線まで続く道の整備もなされていなかった。
かといって自分たちだけでやるにしても手が足りないし疲れる。
疲労困憊の中、戦っても損害が増えるだけだ。
現地で異種族と交流や取引は多かった。
「まあ、大概の異種族とは会ったことがあるしね」
所属していた集成五〇三連隊が最前線へ、異種族の領域へ連日投入されていたという理由もあり、ダイナは多くの異種族とあっており、付き合い方も知っている。
信頼関係が必要なボディーガードの仕事をこなせると、依頼者達は考えられていた。
「頼めない?」
アイリはダイナに尋ねる。
ダイナは横目でカリナンの様子を見る。
危険な目にダイナが遭って欲しくないと思っているようだ。だが、同時に頼られているし、狙われているなら守ってあげたいと思っているようだ。
根が心優しいだけに、両立しない二つの危険に悩んでいる。
「まあ、危険に近づけなければ良いことだし、何とかなるかな」
ボディーガードは狙われることも仕事の一つだが、危険から遠ざけるのが基本だ。
上手くやれば、何事もなく終わる。
いや、何事もなく終わらせるのが警護だ。
「学校の授業の方はどうなるんだ?」
「課外学習扱いで二人とも出席扱いよ。ただ、指定された課題とレポートの提出が必要だけど」
「わかった引き受けるよ。それで相手の種族は?」
笑みを浮かべたアイリの返答にダイナは凍り付いた。
「吸血鬼よ」
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