第七話 エピローグ


「あれは」

「ゴブリン達の巣穴に繋がる横穴だよ。ウィリーピート――白燐手榴弾を投げ込んで燃えているから、暫くは通れないはず」

「そんな物ありませんでしたよ」

「見落としていたんだよ。左側を見て」


 ダイナに言われたとおり、左を見ると横穴があった。


「来るときはなかったのに」

「前ばかり見て見落としていたんだよ」


 前に進むことばかり考えていて小神は自分が入ってきた穴を見落としたのだ。


「ここのゴブリンは頭が良さそうだ。獲物が入ると、ひたすらループした洞窟で歩かせ疲れて弱った所を襲撃するんだ。頭が良いよ」


 相手を疲れて弱らせてから襲撃するとは頭の良いゴブリンだ。


「途中でガスを阻止する水たまりもあった、ガスが巣穴まで通らなかったようだ」

「そんな仕掛け知りません」

「普通はそこまでいかないからな」


 ダイナは何度か経験があったがネットにそのような情報を上げていない。

 情報化社会でもネットになければ、あるいは検索で表示されなければ、情報が得られない世の中なのだ。


「さて、戻るとしよう」

「ゴブリンの死体とかは? 駆除で補助金が出るのでは」


 何とかお金を得たい小神は必死だった。

 ゴブリンの死体を行政に引き渡せば助成金が出る。


「入り口で仕留めた分だけでも十分な金になるよ。それにダンジョンの中の状況を報告するだけでも金になる」

「けど」

「もう帰るんだ」

「でも」

「疲れているだろう。また襲撃されたいか?」

「……はい」


 小神は助けられた手前、大人しくしたがった。

 ダイナ達は、地上へ向かう道に入り歩き始める。

 だが、途中で壁に手をついたダイナは足を止める。


「? どうしたの?」


 先頭を歩いていた麻衣がダイナの動きを怪訝に思い尋ねた。

 ダイナは壁に耳を当て探る。


「……しまったっ! 走れ!」

「え?」

「走れ!」


 ダイナの叫びが理解できず麻衣は戸惑うが、せき立てられるように出口に向かって駆けていく。

 だが、遅かった。

 麻衣の前の横の壁が吹き飛んだ。


「うわっ」


 突然の事に驚き脚を止める麻衣。

 そこから現れたのはオークだった。

 万が一の時に備えて奇襲用にゴブリン共は横穴を掘っていたようだ。


「畜生!」


 自分のうかつさをダイナは苛立ち悪態を吐くが、そんな事は後回し。どうやって切り抜けるかだ。

 だが突然現れた麻衣の身体を上回る巨体に麻衣は驚き固まる。


「ちっ」


 追撃を警戒して最後尾にいたダイナは、前に麻衣と小神がいるので撃てない。

 味方撃ちの危険があるうえ、位置を変えることはあ狭い空間では不可能だ。


「くっ」


 ようやく麻衣がUZIを向けるが、一歩遅く、オークに叩かれ、はじき飛ばされてしまった。


「きゃっ」


 悲鳴を上げる麻衣をオークが掴み吊し上げる。


「は、はなしなさいよ」


 麻衣がオークに言うがオークは卑猥な笑いを浮かべるだけだ。

 間に麻衣と小神がいるため撃てず手詰まりとなりダイナは焦る。

 その時、小神が動いた。


「ま、待て!」

「うおおおっっっ」


 ダイナが止めたにもかかわらず大声を上げてオークに向かって走る。

 オークが空いた手で小神を叩こうとするが小神は間一髪のところで避けオークの懐に入った。

 そして、オークの腹部にダイナから受け取ったリボルバーを押しつけて引き金を引いた。

 パンパンパンパンパンパン


「グオオオッッ」


 乾いた発砲音とオークの絶叫が木霊する。


「よくやった!」


 小神がオークに近づいたことでダイナも近づくことが出来た。

 オークに体当たりするように近づいた小神の脇からダイナは小銃を突き出し発砲。

 拳銃とは比べものにならない威力を発揮し、オークを絶命させた。




「よく、前に出られたな」


 地上に出てきたダイナは小神に言った。

 もし小神が前に出て行かなければ、オークに対処できなかった。


「何とかしなきゃと思って前に出て行きました」

「そうか」


 呼吸を整えてから言った。


「カリナン、今度、ダンジョンに入ってみないか?」

「え?」


 突然の事に小神は驚いた。


「良いんですか?」

「装備の扱いを訓練してからだけどね」

「ちょっと、本当に良いの?」


 麻衣が不満そうに言う。

 何度もアタックをかけても未だに許して貰えないのに小神が一発で許可を貰った事に不公平に感じたからだ。


「オーク相手に懐に入ったのは凄いよ」

「確かにそうだけど」


 無鉄砲な所はあるが火事場の度胸は認めざるを得ない。


「それに目を離していたら勝手にダンジョンにまた潜りそうだしね」


 胆力があるため、腹が据わっており危険と分かっていても怯まない。このままだと一人でダンジョンに入りそうで手元に置いていた方が安全だとダイナは思った。


「まあ、カリナンが納得したらだけど」

「やります!」


 小神は大声で即答した。

 願ってもないことだ。


「よし、頼むよ」

「ありがとうございます! でも」

「なに?」

「カリナンって呼びにくいと思いますけど。皆カリナって呼んでいますけど」

「いやカリナンの方が好きだけど」

「ど、どうしてですか?」


 褒められた小神は顔を赤くしながら尋ねる。


「カリナンというのはアフリカにある鉱山の名前だ」

「鉱山ですか?」

「そう、ダイヤモンド鉱山で、史上最大のダイヤの原石を採掘した鉱山だ。多分そのことを知っていて親御さんは名付けたんだろう」


 小神は驚いた顔をしたあと、穏やかな笑みを浮かべた。


「この後よろしくなカリナン」

「はい先輩」

「ダイナでいい。分からないことがあったら言うんだぞ」

「はい、ダイナ」  

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