ループ状の迷宮

「って! どっち行くんですか!」


 ゴブリンとは逆方向へ走っていくダイナを見て小神は叫んだ。

 その間にも、後ろからゴブリンがやってきて麻衣がUZIで応戦する。


「スタングレネードよこして」

「は! はい!」


 小神は袋からスタングレネードを取り出し手渡した。

 麻衣はピンを抜くと放り投げ、迫ってくるゴブリンを怯ませ、射撃する。


「弾ある?」

「はい!」


 小神からマガジンを受け取ると麻衣は手早く交換し、ゴブリンを待ち構える。

 その間小神は言われたとおりダイナが進んだ方向を見る。

 時折、小銃の発砲音が響くところを見ると、反対側からもゴブリンが迫っているようだった。


「グレネードを!」

「は、はい!」


 麻衣に言われて小神は再びグレネードを用意して渡す。

 突撃してこようとしたゴブリンが目の前の爆発に怯み脚が鈍った所をUZIで銃撃し、撃退する。


「キリが無いわね」


 UZIのマガジンを交換しつつ、麻衣は愚痴る。


「早くしてよダイナ」


 さの時ゴブリンが再び突撃しようとしてきた。

 刺せまいと麻衣はグレネードを再び放り投げ、機先を制す。


「もうグレネードが袋にありませんよ」

「ちょっと使いすぎたか」


 マガジンの数を数え直しながら麻衣は呟く。

 再びゴブリンが攻めてきそうな気配がしたとき、奥で爆発音が響いた。


「来たわね!」


 何が来たのか驚いていると、ゴブリンの背後から、先ほど反対方向へ向かって走って行ったダイナが現れた。

 ダイナはゴブリンに近付くと銃剣で刺し、銃床で殴り付ける。

 猛烈な攻撃にゴブリンの一部が麻衣達に向かって逃げていく。


「チャンス」


 ちゃっかり自分の胸に一本確保していたグレネードを麻衣は投げつけ、ゴブリンを怯ませる。


「いくよ」


 ストックを縮めると飛び出し、スタングレネードで視覚聴覚が麻痺したゴブリンに近付きUZIの銃口を押し当て銃撃する。


「二人とも大丈夫か!」


 あらたかゴブリンを排除したダイナが二人に尋ねる。


「平気よ」


 麻衣が答える。


「あの、どうしてゴブリンの後ろから来たのですか?」


 状況を理解していない小神が尋ねた。


「最初からここはループ状の迷宮なんだよ。ずっとぐるぐる回されるわけ」

「まさか」

「同じ場所を通っている感覚とかなかった?」

「そういえば」

「緩いカーブで分かりにくいけど、ぐるぐる回って疲れさせ、方向感覚が失われ現在位置は勿論、何処に向かっているのか分からなくなる。とにかく進もうとしたんじゃないのか?」

「はい」


 子供や徘徊老人が道に迷うのは、下がることが出来ない、戻る発想が出来ない状態だからだ。

 目的地に着かないと変だと思っても、とにかく前に進もうとしてしまい、別の場所に行ってしまうのだ。

 大の大人でも疲労状態になると、判断力が低下し、戻るという考えさえ浮かばなくなる。

 そうやって道迷いに陥ってしまう。


「元とはいえダンジョンの中に入るんだ。緊張しまくって周囲が分からず見落としたんだろう。それに絶対に攻略するんだと気追いすぎているんだろうし」


 あと、小神の気負いも凄かった。

 自分の家を失う瀬戸際だったことも在り何が何でも攻略しようと意気込んでいたため周囲が見えていなかった。

 通報せずに、単独でダンジョンに潜ろうと思うような状態だ。

 自分の現在位置さえ把握できるような、精神状態じゃなかったのでした仕方ない。


「まあ、生きてて何よりだ」


 嫌な予感がしてダイナは準備を整え追いかけていった絵画あったというものだ。

 準備が足りず、最悪小神を担いで戻ることになるため、麻衣に手伝いを頼み込んだのも誤算だったが仕方ないことだ。


「さて、戻るとするか」

「はい……」


 ダイナに言われて小神は大人しくしたがった。

 後ろをダイナが警戒しつつ入り口へ向かう。

 だが前方に炎が燃えて明るい横穴があった。

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