ダイナと麻衣の救援

パンッ


「わっ」

「ぎゃっ」


 突如転がってきた筒が爆発。

 激しい音と光が小神とゴブリンを襲う。

 彼らは同時に目を瞑り、耳を塞いだ。

 聴覚と視覚が奪われた五秒の間に、ダイナが突進し小神に覆い被さっていたゴブリンを刺し殺す。


「ぎゃっ」


 刺されたゴブリンは悲鳴を上げて絶命する。

 だが、勢いの乗ったダイナの勢いは止まらずゴブリンを吹き飛ばし、小神から離した。


「あっ」


 自分の上で跨がるように銃を構えたダイナの姿を見て小神は、安堵の声を漏らした。

 学校でゴブリンを倒した時のように、いや、その時以上に雄々しい姿に小神は見とれた。


「はっ!」


 ダイナは小神の視線に気がつかず、あるいは無視して周りにいたゴブリンへ攻撃を行う。

 銃床を振り回し、小神の周りにいたゴブリンに打撃を与えて引き剥がす。

 離れると、ダイナは、小銃を再び構え、ゴブリンに銃撃を浴びせる。


「うわっ」


 頭の上で銃撃がおき、発砲オウンが小神の耳を叩く。


「ぎゃっ」


 そのたびにゴブリンは撃ち抜かれ、倒れていった。

 ダイナはマガジンを交換し、銃に取り付けた薬莢袋を外すと倒したゴブリンに近づき、銃剣を刺して絶命したかどうか確かめた。

 急所を刺しても悲鳴を上げないので絶命したことを確認すると小神の元へ戻り、話しかけた。


「無茶をするな」

「……ごめんなさい」


 危険だと言われながら、勝手に一人で入ってしまった。しかも、ゴブリンの反撃を受け危険な目に遭ってしまったことを小神は素直に謝った。


「あと僕を助けてくれてありがとうございます」


 同時に助けて貰えたことを感謝する。

 かつて両親が襲われたときは助けてくれた人はいなかった。

 だが今はダイナが助けに来てくれた。

 申し訳なさもあったが、それ以上に救世主を見つめるような瞳でダイナを見つめた。

 その純粋な輝きにダイナが気恥ずかしさを感じるほどだ。


「ダイナ! まだ来ているみたいよ!」


 麻衣がダイナから貸して貰ったUZIを撃ちながら言う。

 さすがに一人で助けるには手が足りないので、麻衣に手伝いを頼んだ。

 ダンジョンに連れて行って、と麻衣がしつこいので、言うことを聞いてスキルを身につけたなら、という条件でここ二、三日、銃の扱い方やダンジョンの知識を教えていた。

 だが、さすがに遠距離、十数メートルであっても命中させる事は出来ないので、県政射撃のみだ。

 UZIを選んで与えたのもそのためだ。

 片手でも打てるためダンジョンのような狭い空間で使えるのでダイナは持っていた。

 小銃の方が命中率が良いので普段は使っていないが、状況によっては使えるので持っていた。

 ストックを伸ばして肩に当てさせ射撃することで安定させ、弾幕を張らせて近づけさせないようにしている。


「やれやれ」


 ダイナは、後ろを一瞬警戒した後、麻衣の近くに行きゴブリンに牽制射撃をする。

 一発がゴブリンに当たり、悲鳴を上げて倒れると他のゴブリンは怯えて動かなくなった。


「暫くは来ないだろう。ここで警戒していて」

「うん」


 ゴブリンの圧が弱まり麻衣は落ち着いた声で話した。


「さて小神さん」

「は、はい!」


 叱られると思って小神は怯えた声で言う。


「叱るのはここから出た後だ。それよりこの窮地を一緒に脱しよう」

「は、はい!」

「これからゴブリンの後ろに出て奇襲をかけるから、僕がいなくなった後、念のために通路を警戒しておいて」

「奇襲できるんですか」

「ああ、大丈夫。ゴブリンは大体片付けるけど念のためにね。で、警戒しつつ、麻衣のサポートを」


 そういってスタングレネードの入った袋を渡した。


「麻衣が使い方を知っているから、左手で手渡せば良いだけだ。ピンが抜けないよう気をつけて。それと」


 ダイナはリボルバーを小神に渡した。


「右手で握って人差し指はトリガーガードに。万が一ゴブリンに襲われた時は、ゴブリンの身体に銃口を押しつけた後、人差し指で引き金を引くんだ。出来るね」

「は、はい!」


 銃の撃ち方はネットの動画で見て知っているし、弟の玩具の銃で動かし方を練習した。結局、入手先を見つける事が出来ず今回は携行出来なかった。だが、覚えた知識が役に立ったこともあり小神は自信を持って答えた。


「じゃあ頼むね。ええと」

「? 何でしょうか?」

「小神さんの名前って何だっけ?」

「香理楠です」

「カリナン?」

「はい、少し言いにくいのでカリナと皆は言いますけど」

「いや、カリナンとは言い名前だ」


 珍しくダイナは穏やかに言った。


「じゃあ、頼むよカリナン」


 といってダイナは、ゴブリンとは逆方向へ駆け出していった。



 

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