小神のダンジョン攻略

「これで大丈夫なはず」


 小神は、ダンジョンを前にして意気込んだ。

 数日前、かつて攻略されたダンジョンの入り口にゴブリンが住み着いているのを見つけた。

 だが、あえて小神は誰にも言わなかった。

 放置するのが危険なのは分かっている。

 だが、自分の家を守るため、弟と一緒に暮らし続けるため、お金が必要だから自分で退治しようと考えた。

 モンスターの駆除や退治で補助金が出ておりそれをアテにしていた。

 それでも素人の自分一人が潜るのは危険すぎると考え、冒険者と一緒に入ろうとした。

 だが、冒険者の伝手などない。

 下手な人間に頼み込み、騙されて危険なダンジョンに入り死傷した外の人間を知っている。

 そこで単独行動ばかりだが腕があり、誠実そうな木戸先輩に頼んでみた。

 だが、断られた。

 確かに一緒に連れて行くのは危険すぎるというのは分かる。

 しかし、小神は自分でもモンスターをダンジョンを倒したかった。

 家族をモンスターによって、ダンジョンによって壊された復讐がしたかった。

 残った弟とも離ればなれになる事を自分が防ぎたかった。

 足りなくても自分の手でダンジョンを攻略したかった。

 自己満足だが小神の譲れない一線だった。

 断れてしまったが、それは予想の内だ。

 インターネットなどでダンジョンやモンスターの対処法を掲載している市のHPやダンジョン攻略をアップしている冒険者のSNSなどを巡って色々調べ、どうやってダンジョンを攻略するか自分で考えた。


「少しは退治できたはず」


 自分で調べた情報を元に作戦を立て実行した。

 入り口を塞ぐように立てかけられた立ち入り禁止の看板を外す。そしてダンジョンの入り口を網で覆い酸性洗剤と塩素系漂白剤を入れてガスで仕留めた。

 苦しくなって入り口に殺到したゴブリンを小神は槍を使って一人で仕留めた。

 最後の一匹を倒した後、更に十数分待ってから持ち込んだ小型発電機と○ルヒャー、水タンクで入り口から水の粒を噴霧して塩素ガスを抑えた。


「よし!」


 小神はガスに肌が触れないよう全身を動きやすい伸縮性の服で覆い、念のためガスマスクを装面し、槍を握りしめると小神は網を外し、ダンジョンの中へ入っていった。 


「モンスターが来ないな」


 小神は慎重に注意しながらダンジョンの中を歩いて行った。

 ヘッドランプを点け、周囲を照らしつつ両手に槍を持って進む。

 銃など用意出来ないし練習などできない。なので手に入る槍を使っている。

 危険なことだと理解しているため、他の人を誘うわけにもいかない。

 だから小神は、一人で慎重に進んでいった。

 ダンジョン内の狭くなった箇所を抜けて広めの通路を通り、進んでいく。

 モンスターの気配はなかった。

 ダンジョンの内部は立ち入らないよう情報を仕入れることが出来なかったが、そんなに大きいダンジョンとは聞いていない。

 表に出てきたゴブリンの数からして、そんなに居ないだろうと推測している。

 ゴツゴツと岩が張り出しているが緩いカーブを描く一本道を小神は、注意しながら進んでいく。


「あれ? ここ通らなかったかな?」


 だが、歩いていると見覚えのある場所にたどり着いてしまった。

 先ほど手を突いた場所と同じ場所に岩があり覚えがあった。

 更に、進んでいくとやはり、見覚えのある場所、先ほど手を突いている場所だ。


「ど、どういうことなんだよ」


 緊張と歩いてきた疲れがより恐怖を増大させる。

 周囲の状況を確認しようと神経を尖らせる。

 だから、気が付くことが出来た。


「後ろ!」


 振り向くと向かってくるゴブリンがいた。


「たあっ」


 ようやく手に入った槍を何度も突き出す練習を小神はしてきた。

 練習の成果が発揮され正確にゴブリンの胸の中心部に見事クリティカルヒットした。


「ぎゃっ」


 ゴブリンが悲鳴を上げて倒れる。


「よしっ!」


 ゴブリンを貫いた感触に小神は小さく歓声を上げる。

 だがすぐに悲鳴を上げた。


「ひっ」


 多数のゴブリンが、貫かれた仲間の脇をすり抜けて迫ってくる。


「何を!」


 小神は引き抜いて貫こうとした。

 が、槍はびくともしなかった。


「ぬ、抜けない!」


 絶命したゴブリンの筋肉が強張り、槍が引き抜けなくなった。

 ダイナが銃剣を突き刺した後、発砲するのは確実に殺すためと反動で銃剣を引き抜くためだ。

 だが槍には銃など突いていない。


「くそっ! うわっ!」


 小神は何とか槍を引き抜いたが、既に目の前にゴブリンはやってきていた。


「は、離れろ!」


 ゴブリンとの接近戦は避けろ。

 それは何処でも言われていることだ。足下を動き回られると対処しづらい。

 だから槍を装備してきたが、懐に入られたら無意味だった。


「う、うわっ」


 足下に取り付かれ引き倒される。

 倒れた衝撃で槍を手放してしまう。

 何とか抵抗しようとするがゴブリンの魔の手は迫る。


「や、やめろ!」


 小神の声を、悲鳴のような言葉を聞いてゴブリン達は嗤うと小神の服に手を伸ばし破り始めた。


「いやああっっ」


 小神の悲鳴が響く中、ゴブリンは彼女の身体を貪ろうと濡れた手で肌を触る。


「や、やめて、僕を、穢さないで……」


 涙声で懇願するがゴブリンは嗤うだけで、触るのを止めない。


「だ、誰か、誰か助けて……」


 助けを求めた時、甲高い金属音が響いた。その音に気を取られ、ゴブリン達が見ると近くに、穴のあいた筒が落ちていた。   

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