小神の事情
新門戦争の時、魔王軍は地球の魔力を採取するために門を中心に各地にダンジョンコアをばらまいた。
ダンジョンコアは周囲の魔力を吸収しダンジョンを形成。ダンジョンが出来上がると、やがてゴブリンをはじめとするモンスターを生み出していく。
そしてモンスターが増えると外にでて人間を襲撃し始める。
終戦後も、人知れずダンジョンは残っており、警察や自衛隊が討伐及び攻略に対応していた。
しかし自己増殖能力を持つダンジョンもあり、各地で増えている。
だが戦争終結による戦費削減、復員により自衛隊の人数は減少しモンスターやダンジョンにあたる人員が確保出来なくなった。
ダイナなどの冒険者がダンジョン調査やモンスター退治をしているのは、行政側の人数不足による外部委託が理由であり、現代日本で冒険者が存在し活躍する理由だった。
だが、多すぎるモンスターとダンジョンの前に行政や冒険者が取りこぼし――不運にもモンスターと遭遇してしまう一般人がいる。
小神の家族も運悪く遭遇してしまったようだ。
「下手したら彼女転校かも」
「国が支援してくれるんじゃないのか?」
戦争による補償が国から行われている。家族を失ったり、戦闘に巻き込まれ、やむなく従軍した人、特に未成年は、手厚い補償がなされている。
ダイナが無償で高校に通えるのもその恩恵だ。
彼女も受けられるのでは、とダイナは思ったが、麻衣は首を横に振った。
「従軍者や戦災は整っているけど、終戦後のモンスター被害の支援制度が充実していなくて」
モンスター災害の被害に対する支援制度、特に戦争終結後に発生した被害への福祉制度は、まだ充実していない。
ダイナのような戦争従軍者は事が事だけに規模も人数も多かったので終戦後すぐに支援策が出来た。
だが、この支援策の為に他の福祉が圧迫される結果となっていた。
しかも戦後はモンスター被害の件数が一時減っていたこともあり、サポートは不要と判断された。戦争後の被害への救済策は、被害が急増した今、ようやく手が付いたばかりだ。
そしてモンスターやダンジョンの被害は戦後暫くして現れ始めたため、社会的な認知も少ない。
そのため、今でも後回しにされがちだ。
「孤児になったから施設に入らないといけないみたい。弟とも離ればなれになるのが嫌みたいなのよ。家族で暮らしていた家も手放さないといけないみたいだし。何とか維持費や生活費を自分で出そうと頑張っているみたいだけど」
「なんともねえ……」
ダイナにとって悲しくも羨ましい話だ。
母親から中学受験で無理強いされ抑うつ状態に陥り不登校を経験したダイナにとって、過去形であっても愛すべき家族というのが、ファンタジー的な存在だ。
家族と過ごした家を残すために冒険者になろうとしている彼女の気持ちは理解できないが羨ましくもある。
実家に帰りたくないというのも新門市に残り冒険者続けている理由の一つだ。
確かに冒険者は上手くいけば大金が手には入るし、家族の仇を討つことは出来るだろう。
だが、あまりにも危険すぎる。
残された弟や家のためという理由があったとしてもダイナは、とても連れて行く気にはなれない。
万が一の場合、残された家族に伝えに行くのは非常につらいのだ。
戦争中、死んだ仲間の家族に伝えたり遺品を届けたりしたとき、どんな場合でも、泣かれたり、罵声を浴びせられたり、時に物を投げつけられたりしてもつらい。
気丈にもお礼を言ってくれた人達でも、もっと上手くやっていれば、この人達の元へ返してやれたのではないか、と考えてしまう。
ダイナがソロで活動するのも、その万が一の時を考えて仕舞うからだ。
だから他人と組むのを躊躇する。
「でも大丈夫かしら」
「なにが?」
「彼女の家の周り、最近ゴブリンが出没しているみたいなのよね」
「はぐれたゴブリンじゃないのか?」
「それにしては特徴が同じだし同じ場所から頻繁に現れているのよね。廃ダンジョンが近くにあるから、そこにいるのかも」
麻衣の言葉にダイナは嫌な予感がした。
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