ご近所情報屋 麻衣

「全く、なんなんだよ」


 女子生徒が離れたダイナはようやく帰ることが出来たが、心の中のモヤモヤは残ったままだ。

 知らない素人の他人と相棒やバディを組んでダンジョンに行くなど無理だ。

 というか、ぼっちでコミュ障のダイナにとって見知らぬ他人などモンスター以上に道で恐怖だ。

 神経が張り詰め、いつも以上に気疲れしてしまう。

 アイリやライリーなど気心が知れて入ればよいのだが、それ以外は無理だ。

 だから断ったが、何故かモヤモヤする。

 そんなダイナの背中が叩かれた。


「はーいっダイナ、久しぶり!」

「麻衣か」


 ギャルっぽい容姿の同級生を見てダイナは呟いた。


「何よ。私が嫌なの」

「いや、ちょっと嫌なことがあったんで」

「小神さんの事?」

「小神?」

「うん、冒険者のあなたに弟子入りしたいって一年の女子だよ」


 あの女子生徒の事を名前さえ知らなかったことにダイナは今更ながら気がついた。


「結構有名だからね。小柄であんな巨乳なんだから」

「まあ、あの容姿だと目立つだろうな」


 彼女の姿を思い出しながらダイナは言った。


「で、陰キャで危ない冒険者のダイナの元へ行くんだから騒ぎになるわよ」

「そうかい」

「しかも男子トイレに連れ込んで無理矢理事を起こそうとしたとか」

「してない」

「そうね」


 麻衣は面白そうに言う。


「まさかそんな噂流していないだろうな」

「どうしようかな」

「いうなよ」

「言わなくてもこの手の話は広がるから」

「そうか……」


 明日のクラスいや学校で色々噂され後期の視線を浴びることを想像してダイナの表情は暗くなる。


「でも、やっぱり連れて行くの断ったんだね」

「当たり前だろう」


 度々、ダイナに一緒にダンジョンに連れてって欲しいと言っている麻衣だが何時も断られていた。

 勿論、ダイナが断る理由も麻衣は知っている。


「たまには連れて行ってくれないと情報提供する気が失せるんだけどな」

「感謝はしているよ」


 社交的、コミュニケーション能力が高い麻衣は多くの人と知り合える。

 その能力を生かし、近隣のモンスターが現れた情報をキャッチしている。

 しかも警察や自衛隊より早い。

 中には誤報もあるが、時間が経つ毎に正確性が増している。


「けど怖くないのか?」

「なにが?」

「ダンジョンに入ることが」


 麻衣はかつてクラスメイトと一緒に小遣い稼ぎにゲーム感覚でダンジョン探索に言ったことがあった。

 だが、ゴブリンが巧みに回避したことで逆襲され、その時は言った数人が大怪我を負い、亡くなった男子も出ている。


「まあ、怖いけど」

「けど?」

「あんな目に遭う人が出てくるのは嫌かな」


 だから麻衣はある時期、ダイナにモンスター退治を手伝うと言ってアタックしてきた。

 だがダイナが危険だということを理由に断り続け、麻衣は諦めた。

 しかし、何かの役に立ちたいと思い、同級生や近所の知人との会話から情報収集、近隣のモンスターの目撃情報やダンジョンがありそうな場所を調べ、ダイナに伝えるようになった。


「少しはダイナの役に立ちたいし」

「立っているよ」


 正確な情報のお陰で小さい撃ちにダンジョンを見つけ単独で始末することが出来る。


「なら感謝の印が欲しいかな」

「報酬は渡しているだろう」


 麻衣の情報によって攻略が成功したときは、成功報酬の一割を麻衣に渡していた。

 もっともダンジョンコアの売却により一割でも瓦――百万の札束単位の金額になったため、受け取った麻衣はさすがに驚いていたが。


「そうじゃなくて、実際に役に立っているところを見たいのよ。情報渡しても一人で攻略しちゃうし、攻略の瞬間を見れないし」


 麻衣の言いたいことも分かった。

 ある種の使命感から、ダンジョンやモンスターから人々を守ろうとしている。

 そしてダンジョンの情報を伝えているがその情報で本当に見つかったのか、ダイナの口からではなく、自分で見てみたいのだ。


「まあ、小神さんみたいな人が増えるのも嫌だし」

「? どういうことだ?」

「小神さんの両親、モンスターに襲われて亡くなっているの」

「戦争でか?」

「ううん、最近。ダンジョンから出てきたモンスターにやられたみたい」

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