冒険者志願の女子生徒
「……はあ?」
頭を下げる後輩の女子生徒にダイナは思わず、言ってしまった。
だが、呆然としたのも仕方ない。
「戦争に参加した?」
「いいえ」
「危険すぎるよ」
ダイナは、新門戦争従軍者で単独偵察任務もこなしたベテラン、スキル保有者だ。
一方、彼女は何の経験もない一般人。
何もかも、はじめてから冒険者をやるなど無謀すぎる。
「素人が手を出したら死ぬかもしれないぞ。現にこの学校からも出ているし」
前に同級生のグループがモンスターのいる廃ダンジョンに入り死傷者が出ている。
だが、女子生徒も知っていた。
「分かっています……でも僕は冒険者をやらないといけないんです」
「危険だからダメ」
思い詰めたように話す女子生徒だが、ダイナは嫌がった。
「お願いします! 何でもしますから!」
「ダメだ!」
「あっ! 待って!」
ダイナはそのまま返事も聞かず、駆け出し校舎の影に隠れた。
「はあ、なんなんだよ」
制服に戻っても冒険者志望のおかしな女子生徒に声をかけられた事がダイナの頭から離れなかった。
啓蒙教室は幸い死者もけが人も出なかったが、中止となり生徒は教室へ戻った。
警察も着いて事情聴取が行われたが、脱ゆとり教育と月曜祝日の産物、詰め込み時間割のせいで、授業は中止せず続行となる。
ダイナはモンスターを銃を使って処理したことを警察に証言することになった。
何にもしないのに、こういうときだけ、事件捜査の時だけは執拗なのだ。
幸い、追加報酬で西田先生が事情聴取の間の授業は出席扱いにしてくれた。だが、無理解な捜査員の馬鹿げた質問を、理解し分かりやすいように噛み砕いて喋ることの方が苦痛だった。
生徒として学習の機会を与えて欲しかった、と恨みがましく思う。
「まあ、お陰で顔を合わせずに済んだかな」
聴取が長引いたお陰であの女子生徒とも会わずに済んだ。
だが、そうは問屋が卸さなかった。
「木戸先輩!」
「ぶっ!」
突如廊下の曲がり角から、先ほどの女子生徒が現れた。
「探しましたよ木戸先輩!」
「どうして分かった」
マスクを外していたとはいえ、服装も違うのにどうして自分を見つけられたのかダイナは分からなかった。
「前から冒険者をしているという先輩の話は聞いていました。良かった、教室にも授業にも出ていないようで帰ってしまったかと思いました」
「そうかい」
どうやら学校の中ではダイナは有名らしい。
大人しく目立たない高校生活を営んでいたと思ったのだが、やはり冒険者をしているという噂が付いていると目立つらしい。
「それでお願いが」
「冒険者は止しておけ」
「なりたいんです!」
「ダメだ!」
「あ、待って!」
ダイナはきびすを返すと女子生徒から離れた。
幸い、重量物が揺れているため、女子生徒の足はダイナより遅く振り切る事ができた。
「お願いします!」
「絶対にしないからな! 話しも聞かない」
「危険だからダメだと言っているだろう」
放課後、ダイナは校舎裏に女子生徒を呼び出して言った。
あの後、彼女の追跡は凄まじく、ダイナの行く先々に現れては頼み込んだ。
逃げ込んだ男子トイレの中まで追いかけてきて懇願してきた。おまけに、それが逢い引きとか、連れ込んだとか伝言ゲームで伝わり坂田先生に呼び出され生活指導を受ける始末だ。
なので少しでも話を聞いて納得、諦めさせようとした。
「それに俺は相棒や弟子を作らない主義なんだ」
気心の知れているアイリや、凄く疲れるがライリーとなら一緒に組んでも良い。
しかし、全く見知らぬ、それも素人を連れて行くなど嫌だ。
「そもそも何で俺なんだよ」
「あの啓蒙教室の事故でのモンスターへの対応が見事だったからです。あんなに上手く狩る人はいません」
「そうか」
単独で潜ることが多く、狩るときも一人のため褒めて貰えると、結構嬉しいダイナは顔が笑顔になる。
「だから、弟子にしてください」
「断る」
だが、それと連れて行くとなれば話は別だ。
「危険すぎるからダメだ。安全が保証できない」
自分の身一つならどうにか出来る自信がダイナにはある。
だが素人を連れてゆくとなると無理だ。
守りながら狩るなんて自信はない。
そもそも守り切れる保証などない。
「大丈夫です。覚悟は出来ています」
「断る」
「でも」
「ダメだ!」
「……はい」
ようやく女子生徒は引き下がり、ダイナの元を離れていった。
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