モンスター事故の後始末
「きゃーっ」
悲鳴が木霊する校庭を駆け抜けつつダイナは状況を把握して倒す順位を決める。
まずは女子生徒に襲い掛かっているゴブリンをターゲットにする。
他のゴブリンは男子へ向かっているから暫くは大丈夫だろう。ミノタウロスは脅威だが、巨体故に動きが遅いので後回しだ。
女子生徒を襲っている一体に目を付け、ダイナは突進する。
「はっ」
「ぎゃっ!」
女子に目を向けていたこともあり、ダイナは易々とゴブリンの身体に深々と銃剣を突き刺し女子から離す。
地面に倒れたところで安全装置を解除し地面に押しつけながら一発撃ち込む。
トドメと共に発砲の反動で銃剣がゴブリンの身体から抜ける。
同時に次の標的となるゴブリンを探す。
さすがに仲間が殺されてゴブリンも警戒している。
しかし、ダイナはすぐさま距離を詰める。
さすがに逃れられないと思ったゴブリンは逆襲を仕掛ける。
ダイナに接近して、足下を狙う。
小柄なゴブリンは、人間の足下を狙いやすいし、人間も腕のある上半身から通り下半身は防御しにくい。
蹴りで対応する冒険者もいるが、バランスを崩しやすく転倒しやすい。
ゴブリンのただ中で転倒などしたら袋だたきにされる。
なのでダイナは小銃を使うことにした。
銃であるため撃ち殺すことが出来るし、拳銃より長く銃剣が使えるので足下のゴブリンを叩く事も刺すことも出来る。それだけ使い勝手が良いのだ。
よってきたゴブリンを演舞のように振り回す小銃で叩きのめし、地面に倒れたところを小銃でトドメを刺す。
一分もしないうちにゴブリンを全滅させる事が出来た。
「ぶおおおおっっっっっ!」
最後に残ったミノタウロスが、咆哮する。
ダイナは、ミノタウロスに向かって突進するが手前で地面に倒れる、いやスライディングする。
ミノタウロスの拳を逃れるためと、真上にミノタウロスがいる位置取り、誰もいない上空に向かって発砲できるようにするためだ。
ダイナは、スライドが止まるとミノタウロスの胸に狙いを付け、発砲した。
「ぐおおおっっっっっ!」
いくら力の強い巨体でも小銃弾を受け止めきれる訳がなかった。
ミノタウロスは数発の銃弾に貫かれ絶命し、地面に倒れた。
ダイナは素早く接近し頭部に銃口を当てると、発砲しトドメを刺した。
「クリア!」
周囲を見渡し、他のモンスターがいないことを確認する。
モンスターが始末されたことで生徒達は落ち着きを取り戻すが、同時に単独でモンスターを全滅させたダイナに注目が集まる。
「拙いな」
ダイナはすぐに走り出し、校舎裏へ逃げ去っていった。
残された生徒達は、突如危機に現れた英雄の動きに呆然とするとともに、この悲劇をもたらし、情けないていたらくを見せた業者に侮蔑の視線を浴びせた。
「やれやれ、何とか仕留められた」
校舎裏に入るとガスマスクを外しながらダイナは呟いた。
マスクで全力疾走するより辛いので
ゴブリンぐらいは出してくると思ったが、まさか、ミノタウロスを出してくるとは思わなかった。
しかも、トドメを刺さずに持。
電気ショックか何かで刺したつもりだったのだろうが、見栄えを重視して、傷つけたくなかったか。
「だから嫌なんだよな」
モンスターの捕獲依頼はあるが、なるべく無傷で、という内容が多いし無傷なら割り増す内容も多い。
そのため傷つけずに捕獲したいと考える冒険者もいる。
ダイナの場合は単独で動いているため、持ち帰れる重さに制限があるので希少な部位と欲しい部分――美味いドラゴンの肉などを除いて持ち帰らない。
まして生け捕りにして連れ帰るなど不可能に近い。
だからこそ報酬が高いのだが、それでも割に合わないし、それ以前に実行不可能だ。
それだけに、危険をわきまえない、特に一般人への配慮をわきまえない奴は嫌いだった。
「ふうっ」
マスクを脱いで溜息が出る。
仕事は完遂したが、満足感は得られなかった。
「あ、あの……」
そのため、誰かが近づいてくるのを声をかけられるまで気がつかなかった。
顔を上げると、女子生徒が思い詰めた顔でダイナの方を見ていた。
「冒険者の方ですよね」
「……そうだけど」
徽章を見ると一年、後輩のようだ。
リスを思わせる小柄な体つきでダイナより一つ分小さい。
なのに母性の塊がデカい。アイリより大きく、まるでメロンだ。
アンバランスすぎて目が向いてしまう。
しかも全力で追いかけてきたせいか、彼女の息は荒く、胸が大きく弾んでいる
「何か用?」
思わず視線を向けたことをごまかすようにダイナが尋ねると彼女は頭を下げて大声で頼み込んだ。
「私を冒険者にしてください!」
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