学校からの依頼

「万が一、モンスターが暴れたとき、生徒に被害が出る前に退治してくれないか」


 前日、西田先生がダイナに依頼した内容は啓蒙教室の時の万一に備えたという話だった。


「そんなに危険なんですか?」

「生きたモンスターを退治するところを見せるそうだ」

「危険ですよ」


 山にいる普通の動物だって危険だ。

 鹿でさえ凶暴で不用意に近づけば後ろ足で蹴られて頭が割れてしまう事さえある。

 だから必要がないのに近づかないし、警戒させないよう、逃げ道を塞がないよう注意して歩くのが普通だ。

 まして、人を襲うことが目的のモンスターを生きたまま見せつけるなど危険すぎる。


「業者の言い分ではゲームと同じ感覚で退治しようとする奴がいるから現実を、リアルを見せないと言うことを聞かないらしい」

「確かに」


 前に同じ高校のグループがモンスターを退治しようとしてダンジョンに入って死傷した事件があった。

 ゲームと同じだと思って入ったと言っていた事もあり、説得力はある。


「でも絶対ではないでしょう」

「そこで万が一モンスターが暴れたときの為に待機していて欲しい」

「……まさか丸腰で待機しろとか言わないでしょうね」


 当然のことながら高校は銃器の持ち込みは禁止だ。

 それ以前に冒険者が武装できるのだろうか。

 ダンジョン攻略は狩猟と同じ規則があり、狩り場まで不用意に取り出してはいけない、狩猟以外で持ち出してはいけないという規則がある。

 他にも発砲する方向の制限、人の居住地は勿論、道、人通りの少ない登山道でさえ射線上にある場合、発砲禁止。違反者は処罰される。


「大丈夫だ。学校からの依頼として持ち込みを許す」

「流れ弾が出るかもしれないですよ」

「その時は仕方ない。それに可能な限り被害を少なくしてくれるだろう」


 なんとも信頼の篤い言葉だった。

 ここまで言われては断る訳にもいかない。


「分かりました引き受けますよ」


 これまで人に頼られることが少なかった、特に日常生活では殆どないダイナにとって誰かに頼られるのは嬉しい。

 戦争だと、頼られるとしても命令の形で選択肢はない無機質なものだ。

 それでも嬉しいが、強制されているようで嫌だ。

自分の能力を認めて依頼してくるのは嬉しい。

 だが、手順は守らなければならない。


「そうなると依頼ですね。ギルドの方に話を通してください」


 ダイナは単独行動が主だがギルドに所属している。

 ギルドは冒険者の互助機関でダンジョンの情報や武器弾薬の調達などを行っている。

 時折、仕事の依頼もあるが選択できるし、好みの依頼が多いので断ることはない。

 だから仕事を受けるにしてもギルドを通すのがルールだし仁義だ。

 稀にギルドを通さず、単独で依頼料をまるごと懐に入れる冒険者もいるが、ギルドから毛嫌いされ仕事を依頼されなくなるのでダイナはやらない。

 マスターは元戦友だし恩義もある。

 筋は通したいし仲違いしたくない。


「わかった。校長の許可はとってある。依頼に行くよ」


 すぐに西田先生はギルドに行き契約を結び、ダイナは正式に依頼を受けた。

 当日、早めに登校したダイナは用意された空き教室で準備を整え、銃を取りだし装備を装着し、構えて待機していた。

 何事も無ければ、良いが何か起きたら飛び出す。

 待機していてもダイナには報酬――単位の認定や居眠り不問を認めてくれる。

 ギルドの方には正規の依頼料が入っているので問題ない。

 何事も無ければ弾代なしで丸儲けだったがそうもいかない。


「さて仕事だ」


 呟きながらダイナはモンスターに駆け寄る。

 念のためにマスク、最悪、催涙ガスを使う事も考えているが、同級生に顔を見られたくない。

 今後の学校生活で余計なトラブルがやってこないように、これ以上変な噂が流れないよう、正体、顔は隠したいからだった。

 息がし難いが仕方ない。

 阿鼻叫喚の地獄となりつつある校庭へダイナは小銃を構えつつ、全速で駆けていった。

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