見世物

 豚を狩り喰い漁るゴブリンの姿に生徒がドン引きするなか、彼らのショーは続いた。

 サスマタを持ってきて檻の中に入れて、食べていた一体のゴブリンの身体を押さえ込む。


「基本はゴブリンを押さえつけ動けないようにします。特にこのようなサスマタがあると距離をとることが出来るので、安全に抑え込むことが出来ます」


 サスマタの中でゴブリンは暴れるが振りほどけない。

 周りのゴブリンは騒ぎ仲間を助けようとするが、業者が突き出すサスマタは、びくともしない。


「そしてこのまま槍などで仕留めれば完璧です」


 動けなくなったゴブリンに、業者達が槍を突き出し次々と刺していく。


「ぎゃああっ」


 ゴブリンは断末魔の悲鳴を校庭に響かせる。

 なおも暴れるがやがて動かなくなりぐったりと倒れた。

 流石に生徒達はドン引きで、某映画内に出てくる交通安全教室でリアルすぎる交通事故のスタントを見せられた小学生の様な表情だ。

 刺激が強すぎて、やり過ぎだろう。


「まあ、入るような奴はいないだろうな」


 だが、世の中には例外はいる。

 一部の男子生徒は、これなら自分達でもやれるのでは?

 という表情を浮かべている。

 そいつらに対する教育はどうなんだとダイナは思った。


「今回は町中で見かけるゴブリンでした。ですがダンジョン内にはゴブリンだけでなく巨大なモンスターもいます。例えば、こんな奴です!」


 新たにトラックが入ってきて生徒の前に止まった。

 荷台のシートが外されせり上がると中にモンスターがいた。


「ひっ」


 黒い巨体に牛のような頭、ミノタウロスだった。

 仕留められて居るのかぐったりしており、両手を鎖で繋がれ荷台の梁から吊されていた。


「こんな巨大なモンスターがいるので皆さん絶対に入らないように。見つけたら私達に通報してください。必ず倒して安全を確保します」


 最後にしっかりとアピールするところは商売人のようだ。

 ただ倒したミノタウロスが気になった。


「やけに綺麗だな」


 小銃などで撃ち殺すことが多いダイナの仕留めるモンスターは穴だらけだ。

 なのにミノタウロスは見てくれを気にしているのか綺麗だ。

 ゴブリンの扱い方が酷かったが、ミノタウロスは希少価値があり綺麗な死体は高値で取引されるからだろうか。

 生徒に見せるため、後で転売するために、毒や電気ショックで綺麗に仕留めたのだろうか。

 いずれにしろ、獲物の見てくれを優先しているようだった。

 だから、まるでまだ生きているように見えた。


「いや、生きている」


 遠目からでもミノタウロスの手の指が僅かに動のがダイナには見えた。

 目には光が点り顔を徐々に上げ、口を開き咆哮した。


「ぐおおおおっっっっっ」

「ひっ」


 突然、死んでいると思ったミノタウロスが叫んだことで生徒達は恐怖に引きつった。


「ちょっと! 生きているわよ! トドメ刺していないの!」

「電気ショックが足りなかったか! 殺し切れていなかったようだ!」

「早く仕留めろ!」

「待て! 傷つけるなよ! 無傷で転売するんだからな! 傷つければ値が落ちる!」


 業者は叫びながら言う。

 モンスターの扱いには長けていないようだ。

 自分の力量も分からずとりあえず見栄えを良くするためにトドメ、心臓や頭を撃ち抜いたりしなかったようだ。

 しかも生死判定も出来ず、気絶しているだけなのに死んだと思い込んでいたみたいだ。

 よく綺麗に仕留められたと思うが運が良かっただけなのだろう。


「早く仕留めろ!」


 電気ショックを持ってきてもう一度仕留めようとする。

 電極を頭部に押しつけスイッチを入れ電流を流す


「ぎゃうっ」


 ミノタウロスが悲鳴を上げるが気絶しない。

 それどころか電流のショックで筋肉に力が入り、鎖の留め金が外れた。


「拙い! 逃げちまうぞ!」

「早く止めろ!」


 業者達は叫ぶがオロオロするばかりだ。

その間にミノタウロスはもう片方の鎖も引きちぎり自由の身になった。


「ふもおおおおおおおおっっっっっっっっっ」


 自由になった喜びかこれまでの怒りを吐き出したのか、一際大きな声を上げる。


「拙い! 早く止めろ!」

「銃は!」

「馬鹿! 大勢の一般人の前で撃つな! 流れ弾が当たる!」

「サスマタを持ってこい! 網もだ」


 急いで周りにいた業者数人が集まるがミノタウロスの怪力の前には敵わず逆に吹き飛ばされる。


「ぎゃあ」


 業者数名を相手にミノタウロスは暴れ回る。その中の一撃が偶然ゴブリンの檻に触れ、檻を破壊した。

 破られた檻からゴブリンが出てきて生徒達に向かって行く。


「わあああっっっゴブリンだ!」


 先ほど豚を仕留めたゴブリン隊の姿を思い出し、生徒達は恐慌状態に陥る。


「あーあ」


 阿鼻叫喚の地獄絵図にダイナは溜息を吐いた時、無線から西田先生の声が響いた。


『木戸、出番だ』

「了解」


 ダイナは二〇式小銃改二の安全装置を確認して待機していた一階の教室から校庭へ飛び出した。

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