ゴブリンの生態

「皆さーん! こんにちはー!」


 新門高校の校庭に女性の声が響く。

 昨日、西田先生が言っていた教育委員会指定の業者がやってきて全校生徒相手にモンスターとダンジョンへの啓発運動を行っているのだ。

 その中の一人、女性がマイクパフォーマンスをしていた。


「今日は私達がモンスターとダンジョンの恐ろしさ、対処法を教えまーす」


 美人と言って良い顔立ちが整った女性の鈴のような声。

 女性にも好かれるような立ち居振る舞いで全校生徒が話を聞き始めた。

 近年の無気力な生徒相手に注目が集まるよう女性を使い、アナウンスする所をみると多少は、人商売になれているようだ。

 啓蒙の能力があるかどうかは、お手並み拝見、とダイナは思った。


「モンスターはダンジョンから現れます。でもダンジョンにいるモンスターは時折、外に出てきて皆さんと遭遇することもあります。モンスターは大変危険です。決して、一人で対処しないでください」


 ここら辺は普通に一般の常識を話している問題ない。


「もしモンスターと遭遇したら危険ですから決して一人で対処しようとしないでください。大勢だとしても脅威です。なめてかかるとこうなります」


 彼らが持ち込んだ檻の幕があがると、中にゴブリンが数匹入っていた。


「一般的に遭遇する事が多いゴブリンは大体集団で行動します。希にはぐれて一匹で動いている事がありますが大概は集団の斥候の一員でその後ろには数匹のゴブリンがいます」


 間違いではなかった。

 運悪くはぐれたり、ダンジョンを抜け出して一匹で行動する奴はたまにいる。だが、そんな奴は、滅多にいないし、隠れていることが多い。

 食料をあさりに食料品店やゴミ捨て場など出てきたところで、ばったり遭遇ということが多い。

 一方、それ以外の場所で単独行動しているゴブリンは斥候の可能性が高く近くに集団が近くに居て危険だ。

 まして狩りで集団で行動している事が多い。


「子供のようなゴブリンですが、これだけの集団になると凶暴です」


 そう言って、一匹の豚がゴブリンの檻の中に入れられた。


「ぎゃぎゃっ」


 腹を空かせていたのだろう。

 ゴブリン達は、手にしていた粗末な棍棒や石のナイフで豚に襲いかかった。


「ぷぎゃーっ」


 叩かれ切り裂かれた豚が悲鳴を上げる。

 抵抗しようと一匹に向かって突進し、檻に叩き付けて一匹を仕留める。

 だがゴブリンは仲間が潰されても、いや、潰した後の隙を狙って集団で襲いかかる。


「ぎゃふっ」


 頭を叩かれ背中を刺される豚。頭蓋骨は陥没し、ギザギザの石のナイフが傷口を歪に刻み激しい出血を起こす。

 豚は悲鳴を上げるが、ゴブリンは攻撃を止めず群がる。


「ひっ」


 女子が悲鳴を上げ、男子も無言、普段お調子者だったり粗暴な奴さえ口を開いて愕然としている。

 一分もしないうちに虐殺ショーは終わり、豚は倒れた。

 だがゴブリンにとってはこれからが本番だ。

 倒れた豚に群がり粗末なナイフで切り刻み肉片を食べ始めた。


「……」


 死語の痙攣とはいえ、ビクンビクンと身体を動かしている豚の肉を食べているゴブリンを見て、さすがに全員が黙り込む。


「このようにゴブリンは、小さく常に餓えていますので狩りをして獲物を食べていきます。相手は大概猫などの小動物ですが、時に人間も襲って食べます」


 実際、襲いやすくコスパが良いのが人間という理由もある。

 猫のような素早さもなく、犬のように凶暴でもないので狩りやすい。

 だが大きさ体重は犬猫以上で得られる肉の量が多く腹が膨れやすいという理由だ。

 あと、どうも人間は美味いもの食っているせいか肉の味が良いという話を耳にする。

 さすがのダイナも人間を食べたことは幸ない――日本側に攻め込んだので、残ったコンビニなどに食料が残っていたし、さすがの自衛隊も混乱の中でも餓死は避けようと補給部門が頑張ってくれた。ある程度、モンスターの肉が食えることが分かったこともあって人肉は食べていない。

 確かに人間は武器を持てば強いし作れる。だが、武器がなければ弱い。

 対戦車兵器の前に戦車はオワコンとかいう人間がいるが、そいつの手元に対戦車ミサイルが常にあるわけがなく、戦車の前に引っ張り出せば挽きつぶされてお終い、という類いのお話だ。


「では、モンスターが現れた時の対応を見せましょう」

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