モンスターの脅威
「おい、木戸」
ダイナが校門に向かって歩いていると、生活委員会の西田先生に呼び止められた。
「この前の話なんだけど、受けてくれないか?」
「あー、モンスター注意の啓発運動ですか」
かつて戦場だった新門市には魔王軍によって無数のダンジョンコアがばらまかれた。
土地の魔力を吸って、成長し、人間をアイテムなどで呼び込み、作り出したモンスターで狩り、討ち取った人間の魔力を使いダンジョンはさらに成長するのだ。
そのためダンジョンは多いしダンジョンからモンスターが溢れて襲撃する事がある。
被害が多いのでダイナのような冒険者がダンジョンを攻略するのだが、まったく追いついておらず、民間人にも被害が出ている。
「生徒にも被害に遭う奴はいる。モンスターがどんなに危険か教えてやって欲しい」
通学途中にモンスターに襲われる生徒もおり、学校でも注意を促している。
「勿論ダンジョンに入らないように伝えて欲しい」
しかもダンジョンのドロップ品を目当てに入ろうとする人間は生徒の中にもいる。
ゲーム感覚で小学生が入って行ったり、この学校でも小遣い稼ぎに入ってく奴がいた。
そいつはモンスターに返り討ちに遭って死んでしまった。
ダンジョンに入らないよう指導するのも学校の活動だった。
「しかし、生徒に教師役を務めるよう頼むなんて」
「ダンジョンに潜っているんだろう」
「そうですけど、坂田先生に辞めるように言われたばかりですよ」
「危険は何処にでもある。ダンジョンやモンスターの何処が危険なのか知っているんだろう」
「ええ、まあ」
生き残れるのは危険を察知したり、何処が危険か理解し回避する術を持っているからだ。
建設現場と同じで、危険回避のノウハウはある。多いか少ないかの違いだが、冒険者の間では、質が低いがマニュアルが出来つつある。
「そのことを理解して、適性があって活用なら世の中を生きやすいよ。卒業後犯罪に手を染めず、金を稼いで生きていける術を持っているならいいさ。それに学校外の事にいちいち口出しする気はない」
「坂田先生と真逆ですね」
「日本は民主主義、自由主義の国だ。異なる価値観が存在するべきだ。学校の中でもそれは同じと思うが」
「バラバラな意見だと教わる方は苦労しますが」
「校則でガチガチの方が良いのか?」
尋ねられてダイナは肩を竦めた。
ここまで言われると何にも反論出来ない。
まして、ダイナ自身の意見であるのだ。
「で? 教えてくれるか」
「無理ですよ。教え方なんて知りませんし」
誘われたときと同じ答えをダイナは返した。
モンスターが現れたら倒すのが普通のダイナにとって、言葉にするのは難しい。
正確な報告は出来る。だが、モンスターを知らない人間に恐ろしさを教えるという技術はない。
理解していない人間に物事を教えられる本物の教師には頭が下がるが、協力できない。
「無理か」
「入るのと教えるのは別でしょう。逆効果になりそうですし」
教え方が下手だとむしろ自分も出来るのではないかと思わせてしまう。
実際、冒険者としてダンジョンに入っていると知った同級生が、じゃあ俺も、と言って入りモンスターにやられた例を実際に見ている。
「モンスターへの対処法を教えても、これなら俺たちも狩れると思い込む可能性もあります。その時、責任とれませんよ」
自分が出来ない事を出来ると言い張るなどおこがましい。
ダイナはそのような偽善が大っ嫌いだった。
リップサービスでもやりたくない。
「そうか、残念だ」
西田先生も無理強いはしなかった。
やれと言って任せて失敗したら、お前のせいだ、と責任転嫁する輩が多い中、あっさりと受け入れてくれるあたり、希少なまともな人間だ。
それだけに力になれないのがダイナには残念だ。
「なら専門の業者に任せるか」
「専門業者?」
「ああ、何でも戦争経験者が一般向けにモンスターの恐ろしさや対処法を教える業者が出来たそうだ」
「大丈夫なんですか?」
その手の業者は受験業界と同じで碌な技量がないのに、出来ると言って金を巻き上げて適当な事をいって放置だ。
特にモンスターへの対処を教えるなど門が出来て二年ほどしか経っていないのに、まともなノウハウが出来上がっているはずがない。
自衛隊でさえ部内教育に苦労しているのに、プロの業者が出るなど怪しい。
「いかがわしい業者では?」
「教育委員会の推薦なんだが」
「だとしても怪しいですよ」
身びいきで薦めたり、売り込みだけが上手いだけの人間の可能性が高い。
「自衛隊あたりに頼んだらどうですか?」
「やろとしたら教育委員会が軍事教育だといって拒否された」
ダイナは、ぶすっとした顔になった。
確かに軍事には出来るだけ関わり合いになりたくない。
だが、成り行きとはいえ、自衛隊員としてモンスター相手に命がけで戦ったダイナは、それなりの愛着がある。
後方で文句を言っているだけの人間が、現職自衛官が学校に教えにくるだけで軍事教育などと言うのは腹立たしい。
「そんな人間が推薦する業者で大丈夫なんですか?」
文句を言う奴は、大概後ろで叫んでいるだけで実務経験などない。現実を知らない人間に出来るとは思えない。
ミスして大損害を相手に与えるのが関の山だ。
「それで一つ頼みがあるんだが」
「?」
嫌な予感がしたが、先ほど断ってしまった手前、西田先生の話をダイナは聞くことにした。
それほど悪い条件ではなかったので、ダイナは受け入れた。
始めに相手が拒否する案を出して拒絶させ、その罪悪感から次善策を――実際は本命の提案を受け入れやすいようにする交渉術だと分かっていても受け入れる事にした。
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