ブービートラップ
茂みと一緒に蔓が引っ張られ、手榴弾の安全ピンが引き抜かれる。
安全バーが解放され、トリガーが回転し点火薬に点火。
信管へ向かって火が燃えていた。
「伏せろ!」
手榴弾の点火音を聞いたリーダーは叫んだ。
全員が反射的に反応して周囲に飛び伏せる。
点火から四秒後、全員が伏せた直後、手榴弾は爆発した。
「これは」
「ブービートラップだ。茂みで足跡を隠すと見せかけて、その茂みに蔓をからめピンを結ぶ。不用意に茂みを動かすとピンが抜けて爆発する。これが狙いか」
何回か、茂みで足跡を隠し、警戒心を緩め、油断したところで足止めにブービートラップを置く。
遅滞戦闘としては素晴らしい手際だ。
一秒で爆発するブービートラップ用の信管ではなく投擲用の遅延信管だったのは、自分達から奪った装備を使ったからだろう。
「油断するな。敵は単独でも強力だ。油断しているとこちらが大損害を受ける」
山道になれている上に、実戦経験豊富で冷静。
しかも手近な物を使って罠を仕掛け反撃してくる。
非常に厄介な相手だとリーダーは認識した。
「きゃっ」
背後で爆発音がしてティファニアが驚く。
先ほどから何度も足跡を隠すために茂みをかぶせていたが、無駄だと思っていた。
一回、何か仕掛けていたようだが、それで追跡者が怯むとは思えなかったし、罠が一つだけでは効果がないと思っていた。
だが、爆発音がして驚くと共に、罠が作動したと分かり驚いた。
成り行きで一緒になった上に追われているのに、助けてくれる人間の少年の能力と献身にティファニアは驚くと共に、強い信頼感を抱いた。
「追跡してきているか」
ダイナはそんな思いを知らず爆発音を聞いて呟き、現状を冷静に分析した。
小さいティファニアだが、森の中を歩き慣れているので、山の中でも大丈夫だった。
日本の山の急傾斜に苦労しているようだが、森の中の妖精であり、すぐに慣れて、ダイナと同じ速度で移動している。
おかげで、相手とかなり距離を取ることが出来たし、装備も腕前も確かめることが出来た。
ブービートラップを仕掛けたのは、追跡があるかどうかの確認と連中の腕前を見るためだ。
最初の擬装した足跡を、かつての自分のように、グルグル追いかけて一晩中彷徨って欲しかったが、向こうも技能はあるようだ。
しかも、止め足に気がつき自分の足跡をたどっている。
ブービートラップに引っかかったお陰で、彼らは警戒し、追撃の足を遅くするだろう。
だが、仕掛けてから爆発するまでの時間、彼らの移動速度を考えると、多少遅くなっても追いつくのは時間の問題だ。
それに、先ほどの釣り針で見た動き方を見るに、彼らは損害を受けないように間隔を開けて歩いている。
ブービートラップも最小限の被害、良くて一人が追跡不能、あとは介助者が残る程度の被害で残り数人が追ってくる。
「手加減できそうにないな」
素人ならともかく、訓練された連中を相手に手加減したら反撃を受ける。
それに、ダイナは大事な妖精少女ティファニアを抱えている。
今のところついてきてくれているが、歩きすぎると
この状態で追跡を振り切るのは難しい。
「あの手で行くか」
ダイナは、当初の計画通り、目的の谷筋に入っていった。
「急いで!」
谷筋に入るとダイナはティファニアを急かした。
先ほどより更に素早く移動させる。
やがて巨石が二つ並び狭まったところにやってくる。
「先にまっすぐ走っていって」
ダイナはティファニアにいった。
「どうしたんです」
「ここで足止めをする。急いで走り抜けて」
「危険ですよ」
「ここにいても危険だ。すぐにまっすぐ駆け抜けて」
「でも」
「大丈夫。あとから追いつくから。早く!」
ダイナは急かすようにティファニアに言った。
「谷の本筋をまっすぐ行くんだ。何だったら飛んでも良いよ。けど、左には絶対に行くな」
「わ、分かりました」
ダイナの焦った声にティファニアは従った。
追跡者もそうだが、何か別のことに危険を感じているようだった。
言われたとおり谷筋をまっすぐ登る。
そして、行くなと言われた左の谷筋の奥が見えてきて、ティファニアは目を大きく見開き驚くと共に、それが危険だと理解し、谷の奥へ逃げていく。
同時にダイナの身を案じた。
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