罠による心理戦
「かなり速い速度だな」
先ほどの動き、後ろに回り込んだ上、トラップを仕掛けた手際といい、追っている相手は、かなりの難敵だとリーダーは判断した。
ブービートラップの一件で仲間が慎重になり、移動スピードが遅くなっている。
「だが、妖精を連れているはずだから歩みは遅いはず」
妖精を飛ばしたら光を放つので夜だと見つかる。
それに日本に連れてこられた妖精に逃げこむあてなどないはず。
追跡している自分たちに見つからないよう歩いて移動するしかない。
足跡を残してしまうほど速い速度で歩いていても、追いつけるはずだ。
「気をつけろ。仕掛けるようだ」
足跡が谷筋に入っている。
狭い谷で待ち伏せている可能性が大きい。
「前後、気をつけろ。釣り針を使う奴だ。待ち伏せや後ろに回り込むのを狙っているかもしれん」
釣り針をやるような手練れだ。
後ろから攻撃してくることも十分に考えられた。
間隔を広くとり、前進していく。
やがて前方に二つの岩が張り出し狭まっている箇所があった。
「周囲警戒! トラップに気をつけろ!」
周囲と後方を仲間が銃を向けて援護しつつ警戒するなか、一人が狭くなる部分に近づく。
「ありました!」
一番狭い場所にワイヤーが張られており、右側の岩の間に挟む様に仕掛けた手榴弾の安全ピンに繋がっていた。
「知らずにワイヤーを引っかけたらピンが引き抜かれて爆発か」
単純な罠だと思ってワイヤーを切断しようとペンチを握る。
だが、リーダーの頭の中に疑問符が浮かぶ。
同じ、ブービートラップを仕掛ける事に違和感を感じた。
追っているのは創意工夫をこらす相手だ。
先ほども藪で足跡を隠しているように見せかけて、その藪を取り払おうとしたら蔓に結んだピンが外れるようにしていた。
確かにトラップを仕掛けるのに最適な場所だが、こんな見え見えの手を使うとは思えない。
先ほど蔓をワイヤーの代用にしていただけに、夜とはいえ、ワイヤーが見えるように仕掛けるのはおかしい。
時間がないから、という理由も考えられるが、怪しい。
「周囲に気をつけろ」
トラップ自体が罠、見せつけて注意を引くためかと考え、左右から奇襲を警戒する。
だが、言っていて、それは違うとリーダーの第六感が叫ぶ。
単独で妖精を連れて集団からの逃避行。
できる限り、距離をとる、囲まれる、分断されるのを恐れて、回り込むのは避けようとするはず。
なら、正面から攻撃か。
それならブービートラップなんて仕掛けない。そのままキルゾーンに誘い込む。
解除で足止めしたところを攻撃か。
いや、それならとうの昔に攻撃している。
そもそも、なんで見やすい罠を作った。
解除してくれといっているようなものだ。
(むしろ解除させようとしているのか)
トラップを見つけたら、解除する。
自分達が後退するときや、後続が来るとき引っかからないようにするためだ。
トラップを解除させるために、ワイヤーを見せつけているとしたら。
「そのワイヤーを切るな!」
「え?」
リーダーが叫んだときには遅かった。
仲間がワイヤーをペンチで切断するとワイヤーが左側に取り付けられてた重りに引っ張られ勢いよく消えていく。
因みに右側の手榴弾のピンは反対側が折り曲げられており引き抜けないようにされていてワイヤーで重りを吊している状態だった。
その重りが落ちてスイッチを引っ張り電線に通電。
電気信管に電流を送り起爆させ、C4爆薬を爆発させた。
大音響が谷間に響きわたる。
「大丈夫か!」
リーダーが声をかけるが、死者もけが人もいなかった。
そもそも爆発は谷の奥で起こった。
いくら爆発力のあるプラスチック爆弾でも、離れていたら威力はない。
「何だ、この音は」
だが、爆発音が止んだ後、地鳴りのような音が奥から響き、彼らに近付いてきた。
前方の左の谷筋から音の正体、大量の岩や土砂を含む土石流が彼らの元へ迫ってきていた。
「逃げろ!」
圧倒的な土石流の前にリーダーに出来るのは叫ぶことだけだった。
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