止め足

 ダイナ達の足跡をたどり、暗視装備を装着した冒険者パーティーは山の中を駆ける。


「道から逸れているな。まくために登山道から離れているか」


 暫く登山道を歩いた後、逃れるためか相手の足跡は道から左へ道から離れていた。

 暗視装置越しでも草木の枝が折れているのを見つけて正確に追跡して行く。

 追跡相手の針路は徐々に左にずれていた。


「ド素人だな。碌にまっすぐに進めないようだ」


 先頭で足跡を見つけて追尾していた仲間が嗤いながら言う。

 人間は左右の筋力が均等でないため、まっすぐ進んでいるつもりでも、徐々に左右どちらかへずれてしまい、円を描くように歩いて道迷いに陥ってしまう。

 こういうときは、目的の方角上に星や、陸上の目標物を設定して目印にして進むべきだが、彼らはそんな事をしていないようだ。

 歩きやすい場所を選んでいたこともあり、ものの十五分で元の登山道に戻ってしまった。


「なんだ。結局元の道に戻ったか」


 先ほどの、ぬかるみ、自分たちの足跡も残った場所に戻ってきて仲間は、時間を無駄にしたと悪態を吐く。


「だが、登山道を行くなら目的地はわかりきっている」


 念のため、仲間達に登山道のゴール地点に先回りして貰っている。

 待ち伏せて挟撃することも出来る。


「このまま追いかけて捕まえてしまおう」


 待ち構える仲間よりも早く捕まえようと、走るように追撃に向かった。


「待て」


 だが、追撃に向かうのをリーダーが止めた。


「この足跡が変だ」


 リーダーは残った足跡を見る。


「足跡の深さは後ろのほうが深い。これは後ろ足で歩いた跡だ」


 人間は前へ行くとき蹴り出すためにつま先、前の方に力が入る。

 そのため靴跡はつま先が深くなる。

 だが、この足跡は違っており、逆に後ろが深い。


「止め足か」


 熊が追っ手をまくために、あるいは後ろから襲撃するために、後ろ足で自分の足跡を踏みながら下がり近くの藪に飛び込む事がある。

 モンスターの中にもやる奴はいたし、某漫画の影響で戦争で魔物に追われた隊員がやっていたこともある。


「この辺りの藪周辺を捜索しろ」


 リーダーの指示に従い、仲間が周囲を探す。


「あった! こっちの藪の先に新しい跡がある!」


 反対側の右の藪に飛び込んだ跡、枝や葉っぱに折れた跡があった。

 藪を暫く歩いて抜け出したようだ。


「近くの植物で足跡を覆っている。偽装のためだろうな。中々やる」


 仲間の一人が言って追いかける。

 登山道を行くと言った仲間は、偽装に引っかかったためバツの悪い顔をした。

 だが、リーダーは、いぶかしんだ。

 止め足を行ったのは分かる。

 そもそも情報がなく油断していたとはいえ、完全武装の戦争帰り二人を不意打ちで捕らえた腕前の冒険者が、道に迷って元の場所に戻るだろうか。

 しかも、止め足まで使って。

 戦闘は得意だが、野外は不得意という者は確かにいる。

 しかし、止め足を使うような奴が野外が苦手とは思えない。

 初めから予定通りぐるっと回ったとしか思えない。


(なんの為だ)


 リーダーは考えた。

 足跡を見たが、思ったより大股で、歩幅が広い。山道は転倒を防ぐため小幅で歩くのが普通だ。

 だが、慣れているためか、周囲を知り尽くしているのか、恐らく両方の理由で、相手は素早く移動できている、と考えるべきだ。

 そんな奴が素人と同じように道に迷って一周して戻ってくるなどおかしい。

 自分達が思ったよりも目標は早く移動してきている。

 そもそも、どうして登山道を歩いていたのだ。登山道を避けようとするなら、はじめから道を使わないはず。


(はじめから泥濘みに引き込むのが目的だった?)


 その考えに思い至ると、全てが相手の作戦に思えてくる。

 相手の術中にはまっているような嫌な気分になる。

 だが、逆に相手の狙いを見定めることが出来る。

 リーダーは考えた。


(遠回りで戻ってきたのは襲撃するため? いや、それなら足場の悪い、先ほどの泥濘みで攻撃するはず)


 自分たちが、泥濘みに着いたときに相手は来ていなかった、とも思ったが油断は禁物。

 たどり着いていたと考えるべきだ。

 では何故、攻撃してこなかった。


「釣り針で俺たちの事を監視していたのか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る