追跡者達
「とりあえず、山に逃げるよ」
追っ手から離れるように登山道に向かいながらダイナはティファニアに言った。
人数と装備からして自動車を持っている可能性が高い。
自動車の入れない登山道へ入り、追っ手をまくべきだと思った。
「山の中に隠れるのですか」
「それが良いんだけど。連中の正体も能力も分からない」
作戦を立てようにも人数と能力が分からない。
隠れていても向こうの追跡能力が高ければ、追いつかれ包囲襲撃される。
「情報が欲しい」
接触は可能な限り避けたいが相手の能力をダイナは知りたかった。
「とりあえず、釣り針を行いますか」
「逃がしただと!」
東洋系の男が少し癖のある日本語で数人の男達に怒鳴った。
「たった妖精の一匹捕まえることが出来ないのか! 無能共!」
護衛と処理を兼ねて食い詰めた冒険者を雇ったが、思った成果を上げていない。
「元首様の為に妖精を献上しなければならないのに!」
妖精を誘拐して、自国に連れて行くことで異世界との繋がりを持つ。
日本とアメリカなどが独占する異世界の権益を自国にももたらすために行われた作戦だ。
妖精族の少女が、自ら我が国やって来て国交を開きたいと訴えさせ異世界と繋がる。
そして、ゲートの通行券の一部をもぎ取るのが、この作戦の趣旨だ。
あとは妖精の少女を大使兼人質にして、操れば良い。妖精族の作るアイテムやその周辺でとれるモンスターは経済制裁されている祖国に多大な富を与えるだろう。
人質を使って脅して妖精族を操れば、植民地にする事も可能だ。
だが、異世界へ行くには厳重な門をくぐらねばならず、日本が厳重に管理している。
スパイ天国の日本でも、門周辺の警備と管理は厳重で、スパイや特殊部隊を送り込む事は出来なかった。
そこで、ある組織から誘拐の代行を申し出てきて、金を払って実行した。
見事成功させ、このホテルで引き渡しの予定だった。
あとは、取引終了後、今雇っている冒険者パーティーを使って口封じをして全て終わりにするはずだった。
なのに相手は送り届け先を間違えて別の部屋に送り出した。
しかも、自分たちを嵌めるために手榴弾のブービートラップを付けてだ。
違う部屋で爆発して事の次第を把握した後、冒険者を使って妖精を奪回する為に襲撃したら返り討ちにあってしまった。
「今すぐ、逃げた奴を追いかけて捕まえろ! でないと金を払わないぞ」
「分かったよ」
冒険者のリーダーは、憤然としながらも雇い主の指示に従った。
気乗りしない仕事だが、依頼は依頼だ。前金も貰っているし、断る訳にはいかない。
冒険者だが、上手いダンジョンを見つけられず、生活資金が乏しい。外国の情報組織の危険な金でも欲しい。特殊詐欺の受け子をする時のような心情だ。
それでも金を稼がないとならないのだ。
しかも仲間もケガしている。
ここまで痛めつけてくれた奴をそのままにしておくつもりはなかった。
「追いかけるぞ! 追撃戦の装備を調えろ! 一部は車で登山道の出口を固めろ」
リーダーは残った仲間に指示を出し、追跡班を組織すると暗視装置を付けさせると追跡に行く。
警察官を装いホテル関係者から聞き取った話だと部屋の主は休暇で一人で山登りに来たようだ。
動き方からして戦争帰りの冒険者。
戦闘には慣れているようだ。
だが人数を揃えている此方に敵うはずがない。
下手したら特殊部隊にいたのかもしれないが、激戦を戦い抜いたのは普通科――歩兵だった自分たちも同じ。数と連携で追い詰める
本物の警察も通報から駆けつけ包囲網を敷くだろうから、脱出を考えると時間もない。
残った中から四人ほど選び最小限の装備、武器弾薬と暗視装置に少量の食料と水だけで向かう。
重量を減らし身軽になり、急追するためだ。
向こうは山に隠れるつもりだろうが、こっちも日本での掃討戦でモンスターや魔物を仕留めてきており、山の中を追跡するのには慣れている。
仲間も同じで、戦争で同じ部隊だった。すぐに追跡をはじめると彼らの跡を見つけた。
「見つけた。一昨日の雨で出来た、ぬかるみに足を取られたようだ」
登山道を入ってすぐに泥濘んだ箇所に出来たばかりの足跡があった。
大きめの登山靴に小さな靴の跡。
二人に間違いない。
捕捉したことに仲間の一人が中を握り直して嬉しそうな声を上げる。
「さあ、狩りの時間だ」
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