襲撃

 ドア越しにダイナの声が響き、覗き穴が暗くなった瞬間、警官姿の男二人は持っていた自動小銃でドアを乱射した。


「おりゃ!」


 ドアの鍵を破壊すると蹴りを入れて無理矢理開き、中に入り込む。

 そして、一人が破壊されたベッドルームへ更に銃撃を加えていく。


「見つけたぞ!」


 もう一人がバスルームにいた妖精少女を見つけて叫ぶ。

 だがドアの背後、クローゼットに隠れていたダイナが覗き穴を塞いだ靴べらを手放しドアを蹴り偽警官を叩きのめす。


「どりゃっ」

「ぐへっ」


 後ろの異変に気がつき、振り返ったもう一人の懐にダイナは飛び込み、顎に掌底を食らわせ意識を刈り取った。


「全く、せっかく残ったドアを壊して入るなんて、荒っぽい連中だ」


 ダイナは憤然として二人を見下ろしつつ、手早く武装解除し、連中の装備品を押収する。登山用具として修理などで使う為に持っていたガムテープや針金で二人を縛る。

 調べるがよく見ると警官の制服は所々チープだし、警察手帳も粗悪な偽物だった。

 何より、幾らモンスターが跋扈している地域が近くても、硬直した日本の警察組織は警官に自動小銃携行など許していない。


「この人達は?」

「多分雇われた冒険者じゃないかな?」


 ダイナも冒険者だが羽振りの良さはピンキリだ。

 上手いダンジョンにありつけず、装備や生活費に収入を取られ解散すパーティーも多い。

 かといって碌に一般社会で稼ぐスキルのない冒険者の中には食い詰めて犯罪行為に手を出す連中もいる。

 大方、犯罪組織、あるいは外国政府の情報部あたりに雇われたのだろう。


「上手く変装したつもりなんだろうけど、もう少し装備を考えた方が良かったな」


 ガチャガチャと自動小銃の音を鳴らしながら接近してきては警戒する。

 腕がダイナより劣っていたのも助かった。


「襲撃してきたのも、自衛隊に変装した連中だったんだろうね」


 ダイナはティファニアを落ち着かせ、拘束した二人を浴室に詰め込んだところで、彼らの装備品を確認する。


「ストックを折りたためる空挺用二〇式改か、銃はあまり良くないかな」


 二〇式の改良型である改だが、更なる改良型の改二が今の主流だ。わざわざ改を使うのは、安く、容易に手に入れられるからだろう。

 それと多く出回っているため足が付きにくい。


「けど、他に持っている装備は良いな。って、プラスチック爆弾だなんて何に使うんだ」


 彼らのジャケットを調べていてダイナは驚いた。

 防弾板が付いたジャケットには多数の装備心があった。

 手榴弾はまだ分かるが、プラスチック爆弾まで持っているのは異常だ。

 その時、廊下から足音が聞こえた。

 ダイナは素早くドアに近づくと壁に張り付き廊下を見ると、武装した男達が迫ってきていた。

 ダイナは小銃を突き出して発砲し牽制する。

 男達は物陰に隠れて、応戦してくる。

 ダイナは手榴弾を取り出すと、安全ピンを引き抜き男達に向かってスピンをかけて放り投げた。

 男達は慌てて、影に隠れるが、一度バウンドした手榴弾はスピンが掛かり、男達の隠れた方へ飛び込む。

 男達の悲鳴をかき消すような激しい爆発が起きると銃撃は鳴り止んだ。


「逃げるよ!」

 

 その隙にダイナは、ジャケットの下に手榴弾を仕込みピンを引き抜く。次いでティファニアを抱え上げると、奪った装備を詰め込んだザックを担ぎ、窓から飛び出した。

 一歩遅れて襲撃してきた連中が手榴弾を放り投げ、部屋の空中で爆発させた直後、銃を乱射しながら入ってくる。

 外から足音がして窓へ近づこうとしたが、チョッキに足を引っかけ、動かしてしまい、手榴弾が転がり爆発する。

 新たな爆発で数人が巻き込まれた。


「多少は上手くいったな」


 外に飛び出したダイナは、呟くと山の中へ駆け込んでいった。


「さて、仲間が来るまで逃げ回るしかないな」

「あ、あの」


 腕の中のティファニアがダイナに言う。


「私飛ぶことが出来ますよ」


 背中の翼を使って飛ぶことが妖精族は可能だ。

 それはダイナも知っている。


「光ながらだろう」


 魔法を使うためか、妖精族は空を飛ぶときに光ながら飛ぶ。

 七色の光を放つ姿は本当に美しいが、敵、誘拐した連中に見つからないように闇夜を歩くには目立ちすぎる。


「いざというときは、飛んで逃げるんだ。こっちの電話とか使える?」

「……いいえ」


 ティファニアは首を横に振った。

 文化と技術の格差だ。

 こういうときなら電話番号を伝えて飛んで行かせ、携帯電話や公衆電話でアイリに伝えることが出来る。だが、異世界出身のティタニアには無理だ。

 何とか電話で伝えようとしたが、妨害電波が掛かっているのか携帯は不通だ。


「つまり、自力で何とかしないといけないわけだ」


 ダイナは自身の状況にウンザリした。

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