妖精族の少女 ティファニア

「うっ」

「あ、起きた?」


 ユニットバスの床で寝ていた少女いや妖精が動いたのを感じ取ったダイナは、蛇口を閉めてカーテンを開いて話しかけた。


「!」


 目覚めてカーテンの隙間から上半身を出す裸のダイナを見て妖精族の少女は、驚いて目を丸くする。


「おっと失礼」


 驚いた理由に気が付いたダイナは、カーテンを閉め、置いておいたタオルを掴むと身体を手っ取り早く身体を拭き上げ、腰に巻いて浴槽から出てきた。


「一緒に入っていた花火が派手に炸裂してね。煤だらけ埃まみれになったから身体を洗い直していたんだ」


 バスルームの扉を開けるとボロボロになった客室が姿を現し、少女を驚かせる。

 手榴弾を見つけてダイナは、すぐに妖精少女を抱き上げ、浴室に飛び込んだ。

 壁が一枚あったおかげで大した怪我は負わなかった。

 だが、爆煙が掛かり、せっかく大浴場で洗った身体が埃まみれになった。

 しかもその後ホテルの関係者が何事かと駆けつけてきて事情を話し収拾するのに手間取った。

 正直に話して何とか誤解は解いた。

 だが、普段お世話になっている非常に居心地の良いホテルに迷惑をかけ、これからも使いたいのに疑いの目で見られるなどダイナには苦痛でしかなかった。

 不用意に送られてきたキャリーバッグを開けた自分が悪いが、好奇心には勝てなかったし、中に生き物がいる気配がしたので、すぐに解放してあげたかった。

 まさかブービートラップに手榴弾が仕掛けられているとは思わなかったが。

 下手にホテルに渡して、中身の確認に不用意に開けさせずに済んだ、彼女が死なずに済んだことを良しとしよう。

 だが気分は最悪。

 少女の前で、吹き飛んだ部屋で非常識でもシャワーでも浴びてさっぱりしておきたかった。

 部屋の交換は何か申し訳ないし、何か起こりそうなので、止めた。


「シャワー浴びる?」


 クローゼットから比較的まともな服を選びながらダイナは妖精に尋ねる。

 彼女は首を横に振った。


「そう、じゃあ、着替えるからそこにいて」


 ダイナは浴室の扉を閉めて、服を身につけながら尋ねた。。


「で、妖精族の君が、ええと」

「ティタニア」

「そう、良い名前だね。僕の事はダイナと呼んで。それで、ティタニアはどうして縄で梱包されてキャリーバッグに入れられていたんだい? しかも日本に、異世界からやってきている」


 妖精族は当然、門の向こう、異世界に住んでいる。

 そして日本政府は、余計な混乱を避けるためとして、地球の各国と異世界の国が交流することを避けている。

 独占的な利益を得たいのも理由だが、実際、様々なトラブルが起きてる。

 人族相手は外国人相手でトラブルはあるが理解の範囲内だ。エルフやドワーフなども体格が違うが問題ない。

 しかし、妖精族や魔族になると種族が明確に違いすぎる。

 食生活もその一例で、例えばミノタウロスあたりなど体格はともかく一応草食だ。

 日本人にとっては草原に見えても、彼らの主食である草の育成場だったために自衛隊が不用意に演習場にした結果、紛争が起きた事がある。

 他にも法の概念がないとか、文化の差、種族差が大きすぎる。

 もし門を開放した場合、与える影響と混乱が大きすぎる。

 だから、利益を引き出しつつ、状況を整え解放に向けて条件を整えている最中だ。

 そんなときに妖精族がトランクに詰められて送られてくるなど異常だ。


「……突然、襲撃されました」


 言葉少なく、彼女は小さな声で話し始めた。


「供者は殺され、私も捕まって、気が付いたら詰め込まれていて」


 次から次に起こる異常事態にショックだったこともあり、あまり話してくれない。

 だが、ダイナにはあそれだけでも十分だった。


「もうすぐ、自衛隊か警察の人達が来るはずだ。すぐに助けてくれるはずだ」

「いや!」


 初めて彼女が明確な拒絶を示した。


「どうして」

「襲ってきたのは自衛隊の人達よ! 彼らを信じるわけにはいかない!」


 衝撃的な言葉にダイナは一瞬考え込む。

 ハラスメントや人員不足などの問題もあるが、大半の部隊は問題なくやっているはずだ。

 特に国益が期待される新世界、新門方面統合部隊は優秀な人間を配置している。

 裏切ったとは考え難い。


「でも、連絡済みなんだよね」


 爆発した後、携帯でアイリに頼み迎えを呼んでいる。

 あいにくと新門市の外のため飛行許可が下りず、ヘリは動かせないが車ですぐに来てくれるという。

 アイリと御代に引き渡せばまず安心だ。

 だが、こうも自衛隊に不信感をもたれていたら、彼女たちが来た瞬間、ティファニアが逃げ出しかねない。

 考え込んでいると、ドアをノックする音と共に声が響いた。


「失礼します。警察の者です。事情を聞きたいのですが」


 ティファニあの表情が一瞬曇り、何かを言おうとしたが、ダイナは人差し指で静かにさせる。


「はーい、今行きます」


 ダイナは、声を上げてドアに近づいた。

 次の瞬間、外から銃声が響き、ドアが蜂の巣になった。

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