第六話 山間のチェイス

ダイナの休暇

「ふう、食った食った」


 関東の山際に作られたホテルに泊まっていたダイナは自分の部屋に戻りながら、満足そうに言う。

 ここ最近、厄介な事が多かった。

 異世界に連れて行かれ、盗賊退治、ゴブリン王退治はてはドラゴンまで退治することになった。

 いずれも成功したが、気苦労が多く疲れた。

 成功報酬もたんまりと貰ったのでダンジョンに入るのは暫くお休みして骨休めをしようと計画した。

 山登りが趣味なので、関東近郊のほどよい山を歩き回ることにした。

 散々、異世界で重たい装備を担いで歩き回り激しい戦闘をしたのに更に、歩くなんてマゾか、と思うだろうが、登山が趣味のダイナにとって行軍と山登りは別物だ。

 上官の命令や依頼ではなく自分で計画を立て、必要最低限、自分が必要と思うだけの装備を担ぎ、敵を警戒せず風景を楽しみながら、見晴らしの良い稜線を歩くのは気持ちが良いのだ。

 それだけで気が晴れるのだ。

 金曜日に学校を終えるとすぐに部屋に戻り、予め用意しておいた山道具を持って、電車に乗り込み近くの山の近くのホテルへ。

 露天風呂付きの大浴場で長風呂した後、夕食をとって即就寝。

 夜明け前に起きて装備を装着し山に登り始め、途中で夜明けを見て気分が良くなると日中は歩き周り、景色を堪能。

 心ゆくまで存分に歩き周り二時過ぎには下山。

 風呂で汗を流しベッドで一休みしたあと、ホテルの夕食を堪能。

 もう一度風呂に行く。

 今回は長風呂だ。

 五分ほど風呂に入った後、水風呂に三十秒くらい入り、身体を冷やした後、身体を良く拭き五分ほど外気浴をする。

 腰をかけ冷たい外気を浴びていると、この時になると身体から疲れが抜けていくように感じる。

 そして再び風呂に入る事を二、三回繰り返す。

 サウナの入り方からヒントを得た疲労回復方法だ。

 いくらダイナでも軽装備とはいえ長時間の移動は筋肉痛になる。

 前はマッサージを受けたり、疲労回復の粉末を運動後に摂取したりしたが、イマイチ効果がないし金がかかる。

 そんなとき、知ったのがサウナによる回復方法だった。

 サウナと水風呂、外気浴を繰り返すことで身体の代謝が良くなり疲れがとれるというのだ。

 始めはサウナ嫌い――ドラゴンブレスを思い出す熱い空気を吸うのが嫌いな上、苦手なので敬遠していたが、代わりに浴槽に入ることで解決した。これを実行してから登山の後の過酷な筋肉痛がほぼ解消された。

 以来、山登りの後は勿論、疲れが溜まったと感じたら身体のリフレッシュの為にも水風呂のある近所の銭湯へ行き。

 そのため水風呂付き、出来れば露天風呂がある入浴施設や宿泊施設を選ぶようになった。

 少し値が張るが、身体の疲れを癒やし翌日に響かせないため、スッキリした気分で動くには必要な処置だ。

 おかげで、身体は酷い疲れ、身体が強ばり痛みで目が覚める事なく、ほどよい疲労感と眠気がやってきており、今夜はグッスリ眠れそうだ。

 だが、そんな気分は霧消してしまう。


「うん?」


 部屋の前に送られてきたらしいキャリーバッグが置かれていた。

 送り元は書いていない。しかも中に何か入っている。それも生き物、子供くらいの大きさのようだ。

 嫌な予感がしたが、キャリーバッグ部屋の中に入れる。

 すぐに通報するべきだが、戦争をしてきた経験から状況を把握しないうちに報告するのを躊躇った。

 いや何も、知らずにとりあえず行動するのがダイナは嫌いなのだ。

 ひとまず、部屋の中に入れてベッドの前まで移動させてキャリーバッグを横に寝かせて開けてみる。

 幸い鍵は掛かっていなかったので簡単に開いた。


「!」


 開けて中を見てダイナは二つの事で驚いた。

 入っていたのは、少女、半透明な翼を背中に生やす妖精だった。

 ライリーを更に小さく幼くしたくらいの背格好で可愛らしい姿だが金髪碧眼で美しさもあり見とれてしまう。

 手足を縄で縛られ、猿ぐつわも噛まされている扇情的で刺激的な姿をしている事もあり、ダイナをおかしな方向へ目覚めて仕舞いそうだった。

 だが、長時間堪能することは出来ず、新たな性癖が開花する事もなかった。

 キャリーバッグの内側に手榴弾が括り付けられていたからだ。

 その安全ピンが開けた側に紐で繋がっており、開けた途端に引き抜かれ点火するように仕込まれていた。

 手榴弾は既に点火され、爆発した。

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