第五話 エピローグ
「どうしたのダイナ?」
王都郊外に作られた自衛隊の駐屯地の一角で翌日の入場に備えてダイナが一晩過ごしているとアイリが話しかけてきた。
「いや、別に」
ダイナは顔を逸らしてごまかそうとする。
「違うでしょう、いつもと違って私のことチラチラ見ているけど」
「……気のせいじゃないのか?」
ダイナは、はぐらかした。
実際、気になって移動中の時から視線をチラチラとアイリに向けていた。
「キスの件のこと?」
図星を言われてダイナは身体を強ばらせる。
囮役の前、無事に帰ってきたらキスするという約束だった。
自分から約束を果たしてくれ、と言い出すのもおこがましいと思ったので黙っていた。だが、アイリから向けられてきてホッとしたが、同時に緊張する。
ゆっくりと慈母のような笑みを浮かべてアイリが近づいてくるとダイナの鼓動が早まる。
ドラゴンを相手にしたときよりも、ドキドキした。
やがて触れそうなくらいにまでアイリが近づいてきた。
「二人ともどうしたの?」
だが二人の姿が見えなくて探していたライリーが、二人の元にやって来て話しかけた。
「ら、ライリー……いや、何でもない」
ライリーに尋ねられてダイナは、ごまかすように言った。
「ライリー」
そのダイナの様子を見て、アイリは穏やかな笑みを浮かべるとライリーを呼び寄せた。
「どうしたの?」
呼ばれてライリーが近づくと、アイリはかがみ込んでライリーの額にキスをした。
驚いて目を丸くするライリーにアイリは優しく言う。
「今日頑張ったご褒美よ。嬉しい?」
「えへへ、ライリー嬉しい」
好きなアイリにキスされて嬉しくて身体がむずかゆいのか、ライリーは身体をしきりに捩る。
「明日は早いから早く寝なさい」
「はーい、ライリー寝るね」
そう言ってライリーは、嬉しそうに自分の部屋に向かった。
その様子を呆然と見るダイナにアイリは振り返っていった。
「キスしてあげると言ったけど、あなたにしてあげるとは言っていないわよね」
片目を瞑り、イタズラっぽい笑みを浮かべてアイリは言った。
確かに誰にキスするかは、言ってはいない。
だが、自分の目を見て、言ってきたのだから、ご褒美があってしかるべきなのでは、とダイナは思う。
「まあ、確かにね」
精一杯大人ぶって気にしていない態をよそおうが、内心残念がっているのが事実だった。
そんなダイナに、アイリは近づくと両手でダイナの両頬を挟み自分に向けると、顔を近づけ、唇同士をそっと触れた。
「えっ」
突然のキスにダイナは驚いた。
先ほどはキスしないと言っていたのに突然のキス。
どういうことか全く分からず、何故、と驚いていると、ダイナが戸惑うのを見て笑っていたアイリが言う。
「ダイナにキスしないと言ったわけではないわよ」
まるでとんちのような言い分に、ダイナは少しむっとしたが、唇から柔らかい感触の記憶が広がり、怒りと嬉しさが混ざり合って、モヤモヤし、なんとも言えない気持ちになる。
「あら、まだ物足りないの?」
ダイナのめまぐるしく変わる顔色を見て、目を細めコロコロ笑うアイリは再び近づき、同じようにキスをした。
いや、さらに長い時間触れた上に、舌を伸ばして口の中に入れる。
ダイナの不快感を舐めとるように、ゆっくり優しく舐め回してから離した。
「どう? これで満足?」
「う、うん……」
気持ちよすぎて口が麻痺していたダイナには、それだけ言うのが精一杯だった。
「うふふ、これで満足そうね」
小さい子にいたずらをする悪いお姉さんのような、それでいて魅力的な笑みを浮かべたアイリの笑みにダイナは顔を赤らめることしか出来なかった。
「じゃあ、お休み」
それだけ言うとアイリは離れていく。
本当はもっとしていたかったのだが、求めたら下心がありすぎてアイリに嫌われそうで、ダイナは引き留めることが出来なかった。
「はあ……」
出てくるのは溜息ばかりだった。
「ダイナ~」
そこへライリーが声をかけてきた。
「どうしたんだい?」
一つ違いだが身長差があるので、ダイナは屈んで視線を合わせようとした。
だが、ダイナの顔が近づくとライリーはつま先立ちになりダイナに顔を近づけキスをしてきた。
「!」
突然の事にダイナは驚き、声が出せない。
アイリと違って拙く、まるで子犬が必死に舐めるような、可愛らしく乱暴で必死なキスだった。
だが、必死な気持ちが伝わってきて気持ちよい。
「ちょっ、ライリー」
「えへへ」
驚いて思わずダイナは、立ち上がり、舌で嬉しそうに笑うライリーを見る。
「今日のお礼、何時もありがとうね」
「でもな、キスなんて」
少し早すぎるし、アイリへの思いもあってダイナは困惑する。
「お礼だったんだけど、嬉しくないの?」
「い、いや……」
眉を寄せ悲しそうに尋ねてくるライリーを見ては、ダイナモ強く否定出来ないで。
「ライリー」
物陰でダイナの様子を見ていたアイリが、出てきて不満を言う。
「はしたないわよ。うぷっ」
だが、近づいてきたライリーにアイリも口を塞がれ、キスされて黙り込まされた。
「な、何するのよ」
「今日のお礼だよ。感謝の表現でキスするんでしょう」
「そんなことしないわよ。って、誰にでもしているの」
「まさか、ダイナとアイリは特別だから」
純真な気持ちを屈託のない笑みを浮かべてライリーが言うと、アイリは顔を赤らめた。
「で、でも、やり過ぎよ」
怒るに怒れずアイリは悶々とする。
その様子を見てどうすれば良いのかダイナは分からず、見ているしかなかった。
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