ドラゴンスレイヤー

「派手にやったものだな」


 昼過ぎになって御代三佐が増援部隊と共に到着し、完全撃破されたドラゴンの姿を見て肉食獣のような笑みを浮かべてダイナに言った。


「相変わらず、手近にある代物を使って達成することになれているな」

「碌に補給も手立ても用意しない無能の下だと、嫌でも創意工夫を強いられますからね」

「それは元上官の俺に対する嫌みか」

「いいえ、碌に補給と増援を送ってくれなかった政府への不満です」

「……ふん、そういうことにしておこう」


 御代は鼻を鳴らしてダイナの言い分を聞き入れ、命じた。


「帰りのトラックを用意している。王都ではお前さん達の帰還を待っている。ゴブリン王に続いてドラゴンも退治したんだ。更に盛大な歓迎が待っているぞ」

「え~……」


 ダイナは不平を漏らした。


「本当に嫌そうな顔をするな」

「ああいう堅苦しいの苦手なんですよ。学校の朝礼みたいで」


 生徒のためと言いながら何百人もの生徒を校庭に並ばせ十数分も立ちっぱなしにして動かさず、中身のない話を聞かせる、というのは虐待だとダイナは思っている。

 教育者ならせめて記憶に残る話をして欲しいものだ。


「今回はお前が主役だ」

「余計に嫌ですよ。目立つのは」

「功績を上げただろうが」

「目立つと妬まれるんですよ」


 小学校中学年の頃まで、ダイナは理科の成績が良かった。

 天秤と釣り合いとか生物が好きで時に先生以上の知識を持っていて成績はクラスどころか、学年一位だ。

 で、周り、同級生から褒められたかというと、そんな事はなかった。

 理科だけ突出していたため――他は平均点程度で体育はブービーだったので理科だけが出来る印象から理科マニアと揶揄される羽目になった。

 受験科目でもなかったことから、評価されず受験科目を重点的にやるよう求められたため、理科の成績も下がった。

 平均点は上だったが、自分の得意な部分を否定されて自信喪失となり、受験を終えても不登校、やがて退学していった原因の一つだ。

 だから自分の成果であっても素直に喜べないダイナだ。

 それは今でも続いており、ダイナの自己肯定感が低い要因となっている。

 人が集まる場所を避けたいと思ってしまっても仕方なかった。


「とにかく王都にいって褒められてこい。向こうからの要望だ」


 嫌がるダイナの尻を叩くように御代は言う。


「自衛官とはいえ予備で今は冒険者ですよ。ならず者ですよ。歓迎されないのでは?」


 冒険者は魔物を退治する何でも屋のような存在だ。

 それに国に属していないため、歓迎されるような存在ではない。


「ドラゴンスレイヤーはそれだけで称賛に値する存在だ。それに褒め称えなければ国家としての存在意義に関わる。信賞必罰は絶対に行わなければならない。相手の面子もある。行ってこい」

「了解」


 ダイナは渋々、顕彰を受けるためにトラックに乗り込んで向かった。

 多分、日本の外交官がツテを作る為にここぞとばかりに売り込んでいるはずだ。

 御代も外務省に貸しを作る為に送り込むのだろう、戦車隊の要員も連れて行くことになったのが証拠だ。

 ライリーがいるとはいえ、全員、褒め称えて日本という国を異世界に知らしめ影響力を高めるための演出に使われるのだろう。

 ヘリではなく、トラックを使ったのもその一例だ。

 王都やその近郊に十分噂が流れるように、スマホやネットがないので人の噂や情報が流れるのにどうしても一日二日かかってしまう。

 ドラゴン討伐という情報が流れて人が集まるよう仕向け、集まったところで、英雄が登場するという寸法だ。


「よく出来ているよ」


 タイミングを見計らった悪辣で上手いやり方に、呆れるどころかむしろ感心する。

 御代あたりが考えそうなやり方だった。

 だが、どうでも良い事だった。

 どうやって退屈な式典を失態なくやり過ごすか考えるよりも重要な事がダイナにはあってアイリに視線を向けていた。

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