トドメ
さすがのドランゴンといえど、数十個の爆薬の一斉点火を受けては大ダメージを回避出来ない。
翼は穴だらけとなり、墜落したのは勿論だったが、全身に爆圧を受けたため身体が大ダメージを食らっていた。
堅い鱗のお陰で外見上は無事に見えても、内臓が幾つも破裂していた。
そのため、顔を動かすのがやっとだ。
「やった! 倒せたね!」
ドラゴンが墜落したのを見てライリーが嬉しそうな声を上げる。
止まったトラックから降りると持っていた剣を引き抜き、ドラゴンに近づいて行く。
「よーし! トドメを刺すぞ!」
「待つんだライリー」
だがダイナはライリーを止めた。
「どうしてさ! まさか助けるの」
ダイナの制止にライリーは怒る。
あれだけ自分たちを苦しめてきたドラゴンを仕留めるのを止められるのは、ライリーには嫌だった。
ダイナのプランのお陰で仕留められたから話を聞いているが、すぐに仕留めたかった。
「戦車隊に譲ってくれ。彼らの仲間が殺されたんだ。仇を討ちたいんだそうだ」
「ええーっ」
ライリーが不満そうに言う。
無理もない。
ライリーもドラゴンから一方的に攻撃を受けて腹を立てている。
「そう言わないでくれ、向こうも同じなんだ」
ダイナはイヤホーンを外し、耳を撫でながら無線の音声をスピーカーに繋ぐ。
『ライリーさん! 頼みます! トドメは是非我々戦車隊に!』
『死んだ仲間の仇を!』
『あのドラゴン絶対に許さん!』
仇討ちを願う声が続々と流れてきていた。
今まで、攻撃された事がなかった、仲間を殺された経験がなくやり場のない怒りをドラゴンにぶつけようとしていた。
「俺からも頼む」
怒り狂った感情を上手く処理しないと後々、厄介だ。
虐めを受けたり嫌な思いをしてきたダイナにとって他人事ではなく、彼らの気持ちが分かってしまうだけに叶えてやりたかった。
「けど、仕留めたのはダイナの作戦だよね」
逃げてばっかりの戦車にトドメを譲ることにライリーは納得していなかった。
「仕方ないよ。それに今回は戦車には囮役は少し難しかったし」
機動力がある戦車だが、重いので動きが鈍く、ドラゴンの標的になって仕舞う。
幸か不幸か、この辺りは平原だったためオフロードタイプのトラックならば、軽快に逃げられるのでダイナがトラックを運転して囮役となった。
状況を考えると仕方ない、もし戦車の方が逃げやすい地形なら頼んでいた。
だが、今回はダイナが最適だったから引き受けただけだ。
正直、ドラゴンは惜しいが、彼らの恨みは買いたくない。
「譲ってやってくれ」
「分かった」
ライリーも理解してトドメを譲った。
「ライリーから了承を得ました。どうぞ仕留めてください」
『うおおうっっ』
承諾を得て歓喜の声が流れてくる。
『了解した! 感謝する! 各車! 攻撃用意! 目標! 前方のドラゴン!』
無線からテキパキとした指示が戦車隊の声が響く。
先ほどまで追われて逃げていた戦車が戻ってくる。
砲塔を動かし主砲をドラゴンに定める。
『装填良し! 照準良し!』
『撃て!』
主砲が火を噴いたと思った直後、ドラゴンの身体に穴が穿たれた。
ダイキン工業製のAPFSDS――装弾筒付翼安定徹甲弾が命中したのだ。
タングステンの細い弾体を秒速一五〇〇メートルで撃ち出し五〇〇ミリから一〇〇〇ミリの装甲を滑らず貫通するために作られた砲弾だった。
幾ら頑丈で堅い鱗を持つドラゴンでも、耐え抜くことは出来ず、身体を貫かれた。
「グアアアアアッッッッ」
身体を打たれたドラゴンが悲鳴を上げる。
ただ、身体に比して弾体が小さいため、周囲の肉を抉る程度で済んでしまい、まだ生きている。
『目標沈黙せず! 再度攻撃を行う! 弾種変更! 榴弾装填!』
炸薬の詰まった榴弾へ変更し、砲弾を放った。
再び放たれた砲弾は、先ほど作ったばかりの孔に入り込み、内部で炸裂。
ドラゴンの身体は吹き飛び、飛び散った。
『目標撃破! 目標撃破! 目標は粉砕された!』
『やったぞ!』
『くたばれトカゲ!』
ドラゴンを仕留めて隊員達が無線がオープンになっているにも関わらず歓声を上げる。
「あーあ、バラバラになって勿体ない」
吹き飛んだドラゴンを見てライリーは呟く。
あれだけの巨体となるとドロップ品も多く、高値になる。
売ればかなりの儲けだ。
「仕方ないよ、彼らにとってドラゴンは仇なんだ」
ダイナはライリーの言葉に同意しつつも、仕方ないと思う。
ただひたすら仕留めることを考えていた戦車隊の隊員達にとってドラゴンの素材の価値など想像の外だ。
あとでドラゴンの鱗の売値を知って激しく後悔するというダイナの予想は現実のものとなる。
それでも破片や鱗が結構な値段になるので多少は儲けが出て、死んだ隊員の遺族に慰霊金としてかなりの額が出せた。
完全な形で残っていれば、ライリーが首を切断するだけで済ませたなら四倍ぐらいの値段にはなったはずだが。
ただ、爆圧のダメージで内臓系が損傷し価値が低くなっていたことは爆砕されたため誰も知ることはなかった。
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