92式地雷処理車

「ドラゴンを撃破します」


 二回目の襲撃前、ダイナは打ち合わせの中で発言すると周囲は驚いた。


「空を飛んでいるドラゴンをおびき寄せるのか。出来るのか」

「警戒心は強く知性も高いですが、その分プライドも高い。上手く煽って誘いこめば仕留めることが出来ます」


 半信半疑の駐屯地司令にダイナは言った。


「ライリーか戦車が仕留められる範囲にまで引き寄せるのか」

「いえ、それは無理でしょう。ドラゴンはこちらの手の内を、攻撃できる範囲を把握しています。安全な空から降りてくることはないでしょう」


 モンスターだ人間並みの知能がドラゴンにはあると思われる。

 先ほどの襲撃で戦車とライリーの攻撃を見ており、彼らの威力と制約、空への攻撃が苦手なのがドラゴンにも分かってしまった。


「奴が油断するよう誘導し、ドラゴンにとって予想外の手を使って撃破します」

「しかし、飛んでいる奴を倒せるような武器、対空兵器はないぞ」


 対空ミサイルも対空砲もない。

 あったとしても、戦車並みの防御力を誇るドラゴンを撃破出来ない。

 対戦車ミサイルはあるが、空を飛ぶドラゴンを狙うようには出来ていない。


「いいえ、ドラゴンを仕留められる武器はありますよ」


 ダイナは、九二式地雷処理車を見て言った。

 地雷処理車は文字通り、地雷処理を行う車両だ。

 だが、実際の作業方法は人々の予想と違う。

 地面に埋められた地雷を掘り出す、と思ってしまうため、最初にロケット弾が太いロープを引っ張りながら飛び出したときに怪訝に思う。

 しかも、飛翔距離が短く、地面に突き刺さった時点で爆発しないのなら尚更だ。

 だが、処理の本番はこの後だ。

 ロケット弾が引っ張ってきた太いロープは爆索と呼ばれる、二六個の爆薬を繋げたロープだ。

 これを一斉爆発させ周囲を土と地雷ごと吹き飛ばす。

 こうやって幅五メートル、長さ五百メートルの進撃路を確保するのだ。

 異世界に地雷はないが、危険な植物モンスターが、獲物に絡み付いて毒を注射したり丸呑みにする厄介な奴が隠れている事があるため、いそうな場所を掃討するのに使われる事がある。

 最前線でも使用されておりダイナも戦争中にお世話になった。


「ドラゴンを地雷処理車のいる所まで引き寄せ、接近したところでロケットを発射。爆索を身体に絡ませ点火。ドラゴンにダメージを与えます。流石のドラゴンも撃墜できますよ」


 地面を幅五メートルもえぐり取る爆導索だ。

 いくらドラゴンでも無事では済まない。

 堅い鱗を持つ胴体はともかく翼は飛ぶために薄い皮膜が張られているだけで防御力はほぼ皆無。

 あっても爆導索の爆圧に耐えられず、破れる。

 対空ミサイルが効かないドラゴンと遭遇したとき、手元にあった地雷処理車を転用して仕留めたこともあり実証済みだ。


「確かに上手くいきそうだな」


 希望が見えたことで司令達の表情は明るくなった。


「で、どうやっておびき寄せるの」


 何かしでかさないか心配になってやってきたアイリがダイナに尋ねた。

 案の定、無茶を言い始める。


「囮が必要だから。ライリーを僕がトラックに乗せておびき寄せる」


 戦争中、必要に迫られ様々な車両を運転してきたダイナだ。

 トラック程度なら運転できる。無免許だが、異世界であり公道などないので問題なし。

 空から襲撃されて逃げ回った事もあるので、上手く避けられる。


「危険すぎるわ」

「他に方法はある?」

「それは……」


 尋ねられてアイリは黙り込んだ。

 他に良い案が思い浮かばない。


「じゃあ、決定だ。早速準備を」

「私も車両に」

「いや、地雷処理車と先行して隠れていて、撃破するタイミングを理解ているのはアイリだ」


 仕留めた現場にいたのはアイリだ。

 彼女がいないと成功しない。


「でも」

「頼むよ。地雷処理車は二台しかないし、発射できるのは各車両二発だけだ。成功させないとあとはない」


 動かない地雷を相手にするため再装填には時間がかかる。

 それにドラゴンも警戒して寄ってこないだろう。

 二回目はない。

 最初で確実に仕留める必要がある。

 だからアイリには地雷処理車にいて欲しかった。

 それに車の運転はダイナの方が上手いのだ。


「分かったよ」


 最後にはアイリも折れて認めた。


「けど、無事にやってくるのよ」

「分かっているよ」

「分かっていない」


 気軽に答えるダイナにアイリは厳しく言った。


「ちゃんと誘導してきなさい。ライリーもいるんだから」

「分かっている」

「キチンとやりなさい。もし生きて帰ってきたら」

「帰ってきたら?」

「ご褒美にキスして上げる」

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