乏しい戦力

「間もなくだと」


 ダイナの言葉に駐屯地の幹部一同は驚愕する。

 援軍の見込みがないのであれば蹂躙されてしまう。


「何とかならないのか」


 駐屯地司令が血走った目で言う。

 無理もない、生きるか死ぬかの境目だ。


「ダイナ、何とかならないか。ドラゴンと戦った事もあるのだろう」

「ありますけど。単独で仕留めた事なんてありませんし、状況が違います」


 確かにドラゴンを退治したことはあるが、それは他部隊との共同だったり状況が良かったからだ。

 この前、フォースリーコンと共に仕留めたのは、ダンジョンの中だったからだ。

 狭いダンジョンのため空を飛べないドラゴンを狙えたからだ。

 外で飛び回るドラゴンを相手にするのは別次元で厄介だ。

 通常は、ファントム部隊が上空から地上へ引きつけたり叩いたりしたあと、榴弾砲地面に押さえつけたところを対戦車ミサイルで仕留める。

 最後は生死を確認し生きていれば爆破処理してトドメを刺す。

 これが一番安全で確実だからだ。

 そのような方法は現状ではとれない。


「対空兵器で何とか出来ないか」

「無理ですね。威力が小さいです」


 高速で飛ぶ航空機を迎撃する対空ミサイルは、爆発によって破片を周囲に飛ばす事で敵機に被害を与えることを目的にしている。

 ガチガチの装甲を飛行機が施せないし、やったとしても重すぎて飛べなくなる。

 チタンのバスタブを持つA-10サンダーボルトは地上からの反撃前提で地上攻撃を行うため重防御なので例外。低速な分、防御力が高く、強い攻撃力を持っている。

 そのため、撃墜された事が少ない。

 ドラゴンも同じだ。しかも戦車並みに固い。

 空自の〇三式対空ミサイルでも撃墜できるかどうか。

 ヘリのようにホバリングすることも可能、それどころか何処に出も着地して地上に隠れることさえ出来る。

 A-10よりも厄介だ。

 こんなのを相手に戦えるわけがなかった。


「地上に降ろせれば何とかなるのですが」


 戦車の主砲でもライリーの剣でも通じるのは昨夜の戦いでも証明済みだ。

 だが、空を飛んでいる所をどうにかする段階で既に詰んでいる。


「こちらにあるのは何でしょうか」

「移動中の一〇戦車二両に積んでいた対空ミサイル。警備隊の対空ミサイルと迫撃砲二門、ブローニング機関銃三門、行動可能な隊員一五名だ」


 全く話にならない戦力だった。

 また来たら一方的に蹂躙されてしまう。


「他に保管されているものとかは」

「輸送されていたのは食糧が殆どで、武器弾薬は小銃などの個人火器が多く、対空ミサイルとかはない。対戦車ミサイルはあるがね」


 ゴブリン相手に戦っているのだ。対空兵器がないのは当然と言えた。


「前線へ移動中の施設科中隊は?」

「ブルドーザー、ショベルカー、クレーン、地雷処理車、架橋戦車あとはトラックだけだ」


 施設科は陣地構築や進撃路の整備などを行う部隊のため戦闘力は殆どない。

 防御陣地を作ってくれるのは有り難いが。


「駐屯地を放棄して逃げるか」

「そんなのダメだよ!」


 起きてきたライリーが叫んだ。


「この近くには村が多くあるんだ。皆食べられちゃうよ」


 ライリーの言うとおり、近くには村が多い。

 今のところドラゴンは自衛隊の食糧が目当てのようだが、餌がなくなれば周囲を襲うことは十分考えられる。

 いや、駐屯地が手強いと感じれば、手っ取り早く周囲の村を襲撃する可能性が高い。

 既に反撃を受けて傷ついている。

 回復のための栄養補給に襲撃する可能性が高い。


「周辺の村も退避させる。幸いトラックがある」

「ドラゴンが動き出すまでに離脱出来ますか?」


 司令は提案したがあダイナの言葉で黙った。

 確かにトラックはあるが、周囲の村人を収容するのは難しい。

 碌な道が少ないのだ。

 それに住民の説得に時間がかかる。

 トラックは山ほどあるわけではなく住民を移動させるだけで精一杯、彼らの財産、家畜などを置いていくよう言っても聞かない人が多いだろう。

 そして、周囲に点在する村に部隊を派遣したら、兵力の分散になる。

 復活したドラゴンに見つかり、各個撃破を受け最悪、全滅するだろう。

 結局、ここで何とかするしか方法はない。

 だが、対抗手段もない。

 ドラゴンのブレスを受けるか、食われるというBADENDしか思いつかなかった。

 ただ一人、ダイナを除いて。


「……一つ提案があるんですが」

 

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