似たもの同士
四人しかいないのに、あえてダイナがゴブリンの大群をおびき寄せたのは、町からゴブリンをおびき出すためだ。
町中での戦い、市街地戦は困難な闘いの一つだ。
建物が入り組み見通しが効かない町中は、隠れる場所が豊富で、奇襲を受けやすい。
前進しても見つけ損なったり影に隠れていたり、背後に回られ敵から奇襲を受けることが多々ある。
特にゴブリンは身体が小さいため、狭い場所に隠れやすい。
町中でゴブリンと戦うのは出来るだけ避けたい。
なので野外で撃破したかったので、あえて少数で、襲いやすい獲物に見せかけ引きずり出しなかった。
「怒っている?」
「まあね。せめて一言、言って欲しかったな。色々周りに配慮してくれたのは分かっているけど」
明け方頃におびき寄せるように朝食を炊いたのは、ゴブリンを引き寄せるため、それもゴブリンにとっての夕方、一日の終わり、一日の疲れが溜まった時を狙ってだ。
いくらゴブリンの大軍でも疲れが溜まっていたらゴブリンも動きが鈍くなると判断してのことだ。
夜明けと共に増援と支援が受けられる事も考えていた。
「町の人達も助かったし」
僅かだが、ゴブリンに生かされていた人達がいた。
ゴブリンは繁殖のために人間の女性を使うことがあり少数でもいかされている可能性があった。
実際、後から来た自衛隊部隊に救出された。
救出に成功したのはに残っていたゴブリンが少数だったため。しかも、その大半は爆撃の後さっさと逃亡した。
捕らえられた人々を連れて行く暇もなく、解放することに成功した。
「街ごと破壊することがなくて良かったわ」
最悪の場合、隊員の死傷を避けるため市街地戦が不要となる様、建物ごと破壊する町への絨毯爆撃もありえる。
隊員の死傷に世論が敏感なため――戦争が終わったのに未だに自衛隊が作戦行動を行っている事に反対するグループや野党がいるためだ。
タダでさえ少ない隊員を失いたくない上層部の考えもあり、生き残っている可能性が低い、いても残酷な仕打ちを受けているだろう町の人達を苦しめないよう無差別攻撃することも選択肢に入っていた。
勿論、住民感情が悪化するが、ゴブリンに蹂躙されていたと思われる余地がある。しかもゴブリンを天災の一種と見なし襲われて死んだのなら――例え討伐軍の巻き添えを受けたとしても天命だと受け入れる素地が現地の人々にあるため選択肢に入っている。
それでも出来ればダイナは避けたかったので、多少無理をしてゴブリンをおびき寄せたのだ。
そのことにアイリは納得している。
だが、アイリ達を危険に晒したのは事実だ。
「ごめん」
ダイナは素直に謝った。
「本当に最初に言いなさいよ。まあ、生き残りがいるかもしれないのに爆撃される所を見るなんて気分が悪いから、ゴブリンの大軍相手に戦い甲斐があるってものだし」
アイリは笑って答えた。
田村二尉は話を聞いてダイナがどうして圧倒的少数で戦ったのかようやく理解した。
確かに、町の生き残りがいる可能性があったら、町への爆撃を見て罪悪感が募っただろう。
その意味では戦い甲斐があった。
だが、厳しい戦いだった。
ミニミがあったし勇者であるライリーがいたからこそ勝てた。
いや、それでも大軍相手に戦うのは躊躇する。
回り込まれたら包囲され、よってたかって嬲り殺しにされる可能性があるからだ。
ダイナのように躊躇なく、仲間の命と技量、敵の戦力を天秤にかけ、攻撃を決断するなど出来ない。少なくとも田村二尉自身には無理だ。
その点、躊躇なく決断し実行したダイナは、十分な胆力の持ち主だ。
何の力も才能もないとか言っていたが、あれだけの判断力は大した物だ。
ただ、周りに相談せず進めていくところがあるのは、ついて行きづらい。
「まるで御代三佐だ」
誰かに似ていると思ったら田村二尉の上官であり、ダイナの戦争時代の上官だった。
敵味方の戦力を見定め、有利になるよう行動する。
誰にも相談せずにだ。
そのため、何も知らずに激戦に巻き込まれる。
結果的に勝つため、文句を言いにくいのがさらにタチが悪い。
おまけにダイナのような配慮もひっそりと行うのだ。
「民心掌握のためだ」
などとうそぶいているが、そういうところがあって憎めない。
本当に厄介なところも似たもの同士だった。
だが、ダイナは御代のことを嫌っていて、田村二尉の言葉にショックを受け目を丸くした後、不機嫌な顔をしてふて寝してしまった。
その様子を見てアイリはコロコロと笑う。
そのうち、彼らの乗ったトラックは目的地の中継地に到着した。
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