王都への凱旋
ゴブリン王がライリーに討たれた直後、自衛隊による本格的な掃討作戦が始まった。
占領されていた街へ落下傘部隊とヘリボーン部隊を中心とする自衛隊が入り、ゴブリンを掃討。多くが野外で燃やされたこともあり、少数のゴブリンを追い出すだけで街を解放。
捕らえられていた人達を助け出した。
要であるゴブリン王が討伐された上、中心となる戦力が根こそぎ爆撃で燃やされたゴブリンの軍団は脆く、各所で敗退していった。
残敵掃討戦となり、ライリーの必要性もなくなったので、今回のゴブリン王党閥を称えるためライリーを異世界の領主が称えるため王都への凱旋を要請してきた。
ダイナはすぐに帰るつもりだったが、ライリーが一緒に行こうと行ってきたため仕方なく着いていくことにした。
自衛隊の車両に便乗し、王都へ向かっていくが大変だ。
異世界の道路は殆ど整備されていない。
精々馬車がすれ違える程度の幅と、人と馬と馬車で踏み固められただけであり、でこぼこしていて車両で走ろう者なら振動が酷い。
だが、荒野を走るより遙かにマシであるため、自衛隊の車両はそこを走る。
ダイナの乗ったトラックも例外ではなく、酷い振動だった。
乗り物に弱ければ酔うのは必至だが、乗り物好きのためか、ダイナは今まで酔ったことがなかった。
「凱旋♪ 凱旋♪」
王都へ向かうトラックの中でライリーがはしゃぐ。
激しい振動にも関わらずトラックの中にライリーの嬉しそうな声が響く。
あいにくとヘリはない。
ゴブリン王を討伐した後、散らばったゴブリンの集団を掃討する作戦に全て参加している。
幽霊宅配便――ファントム航空隊も、ゴブリンを燃やすために出撃し、飛びすぎて規定飛行時間をこえてしまい緊急整備が必要になってしまった。
それでも勇者であるライリーを必要とする場面はなく、こうして王都に向かう位の余裕はあった。
「わはっ」
ライリーは相変わらず嬉しそうだ。
トラックに乗るのが嬉しいのではなく、ダイナとアイリの間に挟まれているのが嬉しいようで、声が弾んでいる。
どうしたらこんなに嬉しそうに出来るのかダイナには理解不能だ。
だが、はしゃぎすぎたらしく、疲れて眠ってしまった。
そのままダイナの方へ身を預ける。
「気に入られているわね」
「何故かね」
ダイナに取って最大の疑問はライリーがどうして自分に懐くかだ。
日本の普通の高校生――自衛隊で従軍したこともあるし武器も扱えるが、誰でも習えば出来るレベルだ。
特に優れた才能、魔法を扱えるだとか、人外の力を使えるとか、そんな能力などない。 なのに勇者としての力を持つライリーにこして慕われるのはどうしてなのか、ダイナには分からなかった。
「足手まといになるだけなのに」
一応、体力もあるし野外活動も出来る。
だが、そんなの自衛隊のレンジャーでも十分に出来る。
本職に比べれば、まだ成長途中の若造であるダイナなど敵わない。
経験も実力もある彼らのサポートの方がより良い成果を上げられるはず。
なのに何故かライリーはダイナと組みたがった。
「それだけ信用しているし、頼りになるのよ」
「そうかな?」
アイリの言葉にダイナは首を傾げる。
「ダイナも結構根性あるでしょう」
「そうか?」
「ええ、あんな少数で本拠地のゴブリン共を相手に出来ないわよ」
「ゴブリン王を引きずり出すためだ」
「それでもよ」
今回は偵察だが、ゴブリン王を確認するために、町からおびき出す必要があった。
そのためにミニミまで持ち込んで派手に暴れた。
「航空支援を受けられる作戦だったからね。使わせて貰った」
「それよ、普通なら航空支援を思いつく人間なんていないし、使えないし、あんなに上手く使えないわ」
威力絶大だが、使おうとする人間は少ない。
上手く航空機を誘導できる人間が少ないからだ。
本職の自衛官でも陸自と空自では所属が違うため、共同訓練を行っていないので余計だ。
レーザー誘導が精々で、あれほどのゴブリンを一挙に葬ることなど、まして無誘導爆弾をばらまく事など殆どない。
「町にも被害を出さないようにしていたし、凄いわよ」
「まあね」
口外しなかった作戦の意図をアイリが言ってくれてダイナは嬉しくなる。
「それに、町を解放しやすくするために私達が囮役になったんでしょう」
アイリの囮役という言葉にダイナは、バツの悪い顔をした。
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