ゴブリン王討伐

『了解! 派手に燃やしてやるぜ!』


 ダイナの要請を受けたファントム達は旋回すると再び侵入経路へ飛んできた。


「風向きに変化なし、新たにアドレスを送るか?」

『必要ない! 先ほどより北へ落とせば良いんだろう』

「ああ、三〇〇程北へ」

『了解! 盛大なキャンプファイヤーと行くぜ!』


 一度遠くなった轟音が再び近づいてくる。

 さすがにゴブリン達も逃げまどうが、最早遅かった。


『シュートッ!』


 ファントムのパイロットは、絶好のタイミングでナパームを投下した。

 投下されたナパームは暫く飛んでいたが、途中で空中で炸裂。

 中に入っていた可燃物を周囲にまき散らした。

 点火薬のお陰もあって、あっという間に着火し炎の巻くが地上に降り注ぎゴブリン達を降り注いでいく。


「ぐああああっっっ!」


 粘性の高い燃えさかる可燃物に包まれたゴブリンは、悲鳴を上げる。

 だがすぐに声は消えた。

 高温で全身が燃やし尽くされ、次々と息絶え、声を出せなくなったからだ。


『こちら幽霊配達便よりダイナへ。デリバリーは完了だ。星は幾つだ?』

「こちらダイナ。幽霊配達便へ。最高だ。五つ星だ。ゴブリンは、タップリ食えてご満悦だ。頼んだ僕もご満悦だ。最高すぎてゴブリンは皆天国へ行ったよ」


 目の前では炎のスクリーンが生まれ、ゴブリンが燃え尽きようとしている。

 その光景をダイナは、計画通りと行った表情で、ライリーは感動し、アイリは嘆息し、田村二尉は驚き、ゴブリン王は唖然としながら見つめていた。



『そうか、お客様全員に喜んで貰えて最高だ』


 上空のファントムは嬉しそうに翼端を上下させた。

 盛大な炎は上空からも見えるが、ゴブリンに直撃したかどうかまではよく見えず、地上で監視しているダイナから命中したと言われて嬉しかった。


『ご利用の際はまた幽霊配達便のご利用を』

「ああ、頼むよ。それじゃあまた頼む。オーバー」

『了解帰投する。オーバー』


 ダイナは、感謝の言葉を幽霊配達便へ送ると回線を切り、笑顔でゴブリン王に問いかけた。


「さて、後始末といこうか」

「ごぶっ」


 配下が全滅したゴブリン王は、恐怖に震えた。

 ライリーも強いが目の前の男も強い。

 あんな爆発と炎を起こせる――理屈は分からないが直感的に、先ほどの攻撃をダイナが導いた事はゴブリン王にも分かった。

 そして決断した。


「ごぶっっ!」


 ゴブリン王はきびすを返して走り出した。つまり逃げ出した。

 大勢の配下を殺された状態では、勝てない。

 あんな奴らと戦う事など出来ない。

 ならば一旦退いて再起を図るしかない。

 必死に逃げるが、勿論ダイナは許さない。


「ライリー、後は任せるよ」

「オッケー! ライリーに任せて!」


 少女勇者は元気に答えるとゴブリン王を追撃、あっという間に追いつき、抜き去った。


「たあっ」


 前に回り込むと正面から挑みかかり、首筋に剣を滑らせ、振り抜きゴブリン王の首を跳ね飛ばした。


「ゴブリン王! 討伐!」


 ゴブリン王を倒しライリーは意気揚々と宣言した。


「何とか終わったな」


 ダイナはホッとした。

 いきなりの依頼と、追加の依頼、両方をどうにか期日の内に終わらせる事が出来た。

 実入りは多いが、全体的に疲れた。

 上手くいくかどうか、分からず、殆ど賭けのような状況で成功するかどうか不安だった。

 失敗しても割り切れるが、出来る事なら上手くいきたいという気持ちは大きい。

 上手く出来たことに安堵し、達成感に浸るダイナはこのままゆっくり休みたい、と思った。

 だが出来なかった。


「見て見てダイナ! ゴブリン王の首だよ!」


 今し方、跳ね飛ばしたばかりのゴブリン王の首をライリーがダイナに見せるべく持ってきたからだ。


「えへへ、凄いでしょう」

「ちょ!」


 不細工なゴブリンの、しかも突然変異で巨大化し、凶悪化した奴の顔のどアップなど見たくない。

 しかも、まだ切り口から血が滴り落ちている。

 それをライリーは嬉しそうに、ゴキブリを捕まえて飼い主に見せ、褒められたい猫のような笑みを浮かべて迫ってくる。


「分かった! ライリーは凄い。凄いよ」

「えへへ、褒められた。ダイナ、これあげるよ。王都に行けば賞金貰えるよ」

「いいよ、自衛隊から報酬貰えるし、倒したのはライリーだ。貰うわけにはいかない」

「そう……」


 ダイナに拒絶されて悲しそうにライリーは俯く。

 その理由に気がついたアイリが、ライリーにいった。


「暫くはダイナも後始末に残るし、王都まで行ってくれるわよ」

「本当!」


 アイリの言葉にライリーは喜びの笑顔が再び花咲く。


「まあ、アフターケアも仕事の内だし、王都経由で帰るくらいならいいよ」

「ありがとうダイナ!」

「って、ゴブリン王の首を近づけるな」


 嬉しさのあまりライリーはゴブリン王の首を持ったままダイナに抱きついた。

 嫌がるダイナを見て、すぐに締めにポイ捨てしたが、ライリーは自衛隊の増援が来るまでダイナに頬ずりしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る