幽霊配達便

「幽霊宅配便。こちら、依頼主のダイナだ」


 ダイナは無線に向かって呼びかけた。


『よかった。不在票を送らずに済んで良かった』

「満員御礼で早く品物が欲しい。宅配物はいつも通りか?」

『いつも通りのパッケージだ。何処に送れば良い?』

「今、宛先を送る。送り先は腹ぺこのゴブリンだ。タップリ食わせてやれ」

『おう、各機五〇〇ポンド八発にナパーム四発だ。食い意地の張ったゴブリンも満足のスペシャルメニューだ。食べられるよう、しっかり教えてくれ』

「今やる」


 ダイナはグレネードに照明弾を入れるとゴブリン王の上空へ打ち上げた。

 放物線を描いた照明弾は、その頂点で爆発しマグネシウムの燃焼が放つ強烈な光を周囲にまき散らしながら、パラシュートでゆっくりと落ちて行く。

 光は昼のように周囲一帯を明るくし、その様子は上空からでもよく見えた。


「今、宛先を送った。見えるか?」

『見えた。アドレスは照明の下で良いのか?』

「少し北へ、一〇〇程ずらしてくれ。現在、西の風二メートル。東から侵入。俺たちは南の森の中にいる。それと北に町があるから侵入経路に注意してくれ。とりあえず、最初は五〇〇ポンドだけ、残りは状況に応じてローストにする。あとは好きにやってくれ」

『了解! これより突入する!』


 上空から轟音が響いてきた。


「ライリー! ゴブリンを始末する! 下がれ!」

「分かった!」


 ダイナの指示でライリーは、ゴブリン王から離れ、ダイナ達の方へ向かってくる。


「ふごおおおおっっっ」


 照明弾の明かりに一瞬目が眩み動きを止めたゴブリン王だったが、ライリーが下がったのを見て、逃げたと思い追いかけ始めた。

 取り巻きのゴブリン達も追いかけていく。


 ゴオオオオオオッッッッッ

「ふごっ?」


 だが、上空から降りてくる轟音を聞いて脚を止め上空を見上げる。


「うごっ!」


 一匹のゴブリンが夜空に普段はない星、いや明かりを見つけた。

 鳥のような翼を持ちながら後ろに光を、アフターバーナーの排気炎をまき散らしながら迫った来るF-4ファントムが見えた。

 アメリカ海軍が一九六〇年に開発配備した戦闘機で爆装も可能だ。

 航空自衛隊では二〇二一年三月まで配備され使用されていたが、一度は退役。

 だが、異世界と繋がったとき、兵器不足の為、倉庫でホコリを被っていたファントムを引っ張り出して再整備し再び投入した。

 高性能戦闘機などいない異世界ではほぼ無敵のためそのまま使用されている骨董品だ。

 だが、最大七トン、普段でも三トン近い爆弾を搭載し、まき散らす事が可能。

 その機体が照明弾の下、ゴブリン達のいる場所へ音速に近いスピードで迫った。


『ゴブリン王ご一行へ! 此方幽霊配達便! ダイナからの送りものでーす!』


 生きの良いパイロットがご機嫌に言いながら、一〇〇メートルの間隔を取って続く僚機三機と共に五〇〇ポンド爆弾――重量二二五キロの爆弾を落とした。

 通常の爆弾だが、先端に一メートルほどの棒が付いている。

 これは延長信管で、先っぽに信管が付いている。

 素早い飛行機から落とされた爆弾は、地面に落ちると爆発する前に地中へめり込んで仕舞う。大きなクレーターを作ってくれるが、爆発の威力は土を押しのけるために使われてしまい殺傷範囲が狭くなってしまう。

 そこで、めり込む前に爆発させようと信管を延長させて取り付けたのがこの爆弾だった。

 各機は二発ずつ、八発の爆弾を〇.五秒の間隔を開けて順次投下していった。

 幅四〇〇メートル、長さ一二〇〇メートルの範囲が吹き飛び、爆炎に包まれる。


「ふごおおっっ」


 背後が、自分の配下が吹き飛ばされるのを見てゴブリン王は、驚愕する。

 爆発の衝撃と爆風で土ごと巻き上げられ、押し潰され、肉塊に変わってしまった。

 十匹や二十匹ならすぐに生まれてくる。

 だが、数百匹ものゴブリンが吹き飛ばされては、さすがに平然としていられない。


『おい、ダイナ。第一便、配達完了だ。もう一回行くか?』

「そうだな」


 唖然とするゴブリン王をよそにダイナは吹き飛んだあとを確認した。


「後ろの方、北側にまだ残っているみたいだ。仕上げを頼む」


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