ライリー対ゴブリン王

「狙撃も通じないのかよ」


 ゴブリン王の反応速度に田村二尉は唖然とする。

 巨体にもかかわらず、ダイナの狙撃を得物で防いだ。


「相変わらず、よい反応速度しています」


 狙撃を防がれたダイナは何時もの事だと割り切って次の手、グレネードをゴブリン王に向かって放った。

 ホブゴブリンを吹き飛ばして葬った弾が正確に飛んで行く。避けても周囲の配下を吹き飛ばせるという算段だ。

 だがゴブリン王は手近にいた配下のゴブリンを掴みグレネードへ投げつけ攻撃を凌いだ。


「配下を盾にするのか」

「そういう連中なんですよ」


 驚く田村二尉にダイナは呆れるように言った。

 時に仲間さえ盾にするのがゴブリンだ。

 それでいて同族のやることは忘れる。

 憎しみや怒りは他種族に、人間に向かって行くのだから、たちが悪い。


「ふおっ」


 その時ゴブリン王は配下が持ってきた巨大な岩石をダイナ達に向かって放り投げた。


「げっ」


 近づくにつれて大きくなる石に田村二尉は悲鳴を上げる。

 ダイナめがけて放たれた石だったがダイナは弾道を見極めて避ける。

 直撃は免れたが石が木にあたった衝撃で砕け、周囲に破片が飛び散り、大木が倒れた。


「ぐおおおっ」

『ぐおおおっっっ』


 ゴブリン王の攻撃にこれまで攻撃され一方的に被害を受けていたゴブリン達が鬱憤が晴れた歓喜の声を上げる。


「相変わらず、上位種が味方にいると歓声を上げるわね」


 ゴブリンの気色の悪い声を聞いてアイリがうんざりした表情をする。


「でもゴブリン王の存在は確認した。じゃあ、ライリー。頼むよ」

「任された!」


 ダイナに言われるやいなや、ライリーはゴブリン王へ向かって飛び出していった。

 かなり距離があったはずだがライリーは一挙に駆け抜ける。

 背負った大剣を抜き、跳躍すると大きく振りかぶってゴブリン王に叩き付ける。


「たあああっっ」


 可愛らしい声とは裏腹に、重たい音が周囲に響き渡る。

 ゴブリン王が咄嗟に棍棒を掲げ、斜めに大剣とぶつけて受け止めたのだ。


「やるね。ライリーの一撃を受けるなんてそうそういないよ」


 ライリーは玩具を見つけた子供みたいな無垢な笑みを浮かべると一度距離を取り、再び大剣を打ち付ける。

 ライリーとゴブリン王の切り結びは幾重にも及び、何時までも続くかと思われた。


「もらった!」


 だがライリーが一瞬の隙を見抜き鋭い一撃を浴びせようとした。


「うわっ」


 だが、周りにいた取り巻きのゴブリンが投石してきてライリーの攻撃を邪魔する。


「邪魔するな!」


 ライリーが大剣で振り払うが、そこへゴブリン王の鋭い一撃がやってくる。


「くっ」


 ライリーは受け止めたが、不利な姿勢で受け止めたため身体に負荷が掛かり、身体が悲鳴を上げる。

 しかも取り巻きのゴブリンが矢を放ってくる。


「うおうっ」


 ライリーはゴブリン王を押し返すと、その場を離れ矢を回避する。

 その後も、ゴブリン王と取り巻きの連係攻撃は続いた。


「もう! しつこい!」


 ライリーはゴブリンを切り払うが、数が多く倒しきれない。

 そうしている間にも、一匹のゴブリンが矢を番えて狙ってきた。

 だが、そのゴブリンは突如頭に穴があき、倒れた。


「ダイナ!」


 離れた箇所にいたダイナが、小銃で狙撃して援護したのだ。


「ライリー、そのまま連中を引きつけておいてくれ!」

「分かった!」


 ダイナの支援もあり、ライリーはゴブリン王と戦う。

 時折援護しようとするゴブリンもいるが、ダイナが狙撃して倒す。


「機銃掃射で殲滅しますか」

「いや、ライリーにも当たってしまう」


 ミニミを持っている田村二尉の意見を否定する。

 勇者だが、身体はいくらか強化されているとはいえ、十五歳の少女だ。

 万が一NATO弾を受けたら無事では済まない。


「それに周りの連中が出てきている」


 ダイナは、左を向くと連射した。

 ゴブリンの一部がダイナ達の方へ向かってきていたのだ。

 田村二尉も気が付いて掃射を浴びせる。


「こっちにも来ているから対応しきれない。それにライリーに下手に加勢しても邪魔だ」


 ゴブリン王の力は強くダイナ達が立ち向かっても一撃で吹き飛ばされるのがオチだ。

 出来る事は遠距離から援護することでしかない。


「じゃあ、俺たちは何も出来ないのか」

「そういうわけでもない。もうすぐ援軍が来るし」

「援軍?」


 田村二尉が首を傾げていると、無線から通信が入った。


『ダイナへ、こちら幽霊宅配便だ』

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