ミニミ

「ちょっと、数が多いわよ」


 雲霞の如く迫ってくるゴブリンを前にアイリが言う。

 三人は自動小銃を持っている。

 だがマガジンの装弾数が最大で三〇発分しかなく、マガジン交換などで時間が掛かるため、思ったより弾数が撃てない。

 集団がしゃにむに突っ込んでくると対応しきれない。


「なら、奥の手を使うか」


 と言ってダイナは背中に担いでいた袋から大きな銃、いや機関銃を取り出した。


「なっ……」


 出てきた機関銃、ミニミにアイリは唖然とする。

 分隊支援火器と呼ばれるミニミは小銃弾を使える軽機関銃で毎分六〇〇発撃てる。

 自動小銃と同じ発砲速度だが、最大二〇〇発の弾帯を使用可能でマガジン交換が不要な分、大量に撃てる。

 お陰で集団で突撃してくる相手に弾幕を張り粉砕する、今の状況に役に非常に立つ武器だ。

 ダイナは、ミニミを地面に据え付けると弾帯を銃本体に装填し、ゴブリンの集団、密集している場所から少し右に寄せて定め、引き金を引いた。

 ミニミを連射しつつ身体を左にひねり、右から左へ銃口を動かす。

 ゴブリンの集団の中心部分が右から左へミニミの掃射を浴び、次々と倒れていく。

 中には密集しすぎて直線に並んだ三体のゴブリンが一発で貫かれることさえ起きており、ダイナ達に突進していたゴブリンの集団は次々と倒れていく。

 十秒もしないうちに一〇〇発近い銃弾を受けたゴブリンの集団は一掃された。


「凄い」


 掃射された様子を見て田村二尉は感嘆した。

 幹部候補生学校などの演習や見学で見ては知ってはいるが、実際の効果を確かめたことはない。

 現実にその降下を見せられると圧倒されるしかない。


「よく持ってきたわね」


 アイリが伏せて掃射を逃れたゴブリンを狙い撃ちつつ、呆れるようにミニミを構えるダイナに言った。


「重すぎて苦労したでしょう」

「本当に重かったよ」


 ゲームのように、現実ではあらゆるアイテムを持って行くことは出来ない。

 装備の重さで自分が潰れるからだ。

 ミニミの銃本体の重量は10kg(二〇〇発装填済み)もある。

 抱えて行くのは重い。

 しかも発砲速度が六〇〇発なので二〇〇発持っていても二〇秒で弾薬が尽きる。

 その分、他のメンバーに予備の弾薬を運んで貰うのだが、これが重い。

 5.56ミリNATO弾の重量は12.3g。二〇〇発だとおよそ2.5kg。

 小銃を含め他通常装備およそ14kgの重量に追加されると重い。

 しかも落下傘降下の時、着地の衝撃が強くなり、下手すれば骨折の可能性もあって、危険なのでできる限り軽くしたい。

 そして降下した後重たいパラシュートを持って行かなければならない。


「ゴブリンの集団と銃撃戦の可能性があったからね」


 だが、ゴブリンの集団と銃撃戦をする可能性があるとなれば有効なので持っていかないと拙い。予備の弾薬の荷物を一緒に投下し、ライリーに持って貰うなどして予備弾薬およそ八〇〇発を確保する事で持ってきた。

 十キロ近い荷物を持って移動出来るとは勇者というのは凄い。

 山登りで歩荷訓練、体重の半分くらいを担ぐ訓練をして、短距離、一時間程度なら歩けるダイナだが、ライリーは疲れ知らずだ。

 普通の人間が、なんの障害もなく荷物を背負えるのは体重の四分の一が限界だ。三分の一を超えると目に見えて運動能力が低下する。

 なのにダイナは身体が小さいながらも、軽々と移動していた。

 本当に勇者というのが常人と比べて規格外だとダイナは改めて思う。


「ダイナ! 後ろからもやってくるよ!」


 後ろを警戒していたライリーが叫ぶ。

 正面からの攻撃で損害が多すぎるため後ろから回り込んできたようだ。

 その数、三十匹ほど。

 挟み撃ちにされたら危険だ。

 もとより人数が少ない中、接近戦など死ぬしかない。


「任せろ」


 ダイナはそう言って、田村二尉にミニミを任せると、自分の小銃で木の上に作った標的を狙って撃った。

  

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