ゴブリン集団相手の戦闘

「何でだ! 何で突っ込んでこれる!」


 腕に何発も小銃弾を喰らったホブゴブリンが突撃してくるのを見て、田村は叫んだ。


「連中、痛覚が鈍いんですよ」


 戦争中、ホブゴブリンに同じ突撃を喰らったダイナが呆れるように言った。


「だが、あれだけ撃たれたら出血で意識なくなるはずだぞ」


 銃弾を受けてボロボロとなり血が流れるホブゴブリンを見て田村二尉は叫ぶ。


「連中腕や脚の付け根に縄を縛っています。腕や足に被弾しても、出血で倒れないように工夫しているんです」


 突撃前、突撃の間の短い時間に被弾しても血が流れ過ぎて死なないように予め手足の根元を縛っておくのだ。

 これなら手や足に被弾しても血が止まっているため出血で死ぬことはない。

 絞めすぎると腕や足が動かず、碌に走れないし攻撃できないが力加減を上手く調整すれば問題ない。長時間の攻撃だと血が通らず壊死してしまうが、突撃など五分もかからない。

 ゴブリンはモンスターであっても無機物ではなく生物だ。

 五分以上全力疾走など出来ない。

 突撃の間、走れる。倒れても味方の治療、治癒魔法を受けるまで生きていられるのなら有効な手段だった。

 あれだけの規模のゴブリンの集団になると魔法を使えるゴブリンシャーマンがいて、治癒などを行える。無駄な工夫では無かった。


「おい! どんどん迫ってきているぞ!」


 付け根を縛っているホブゴブリンは出血が少ないため中々倒れず近づいてくる。

 しかも、敵に一番近くまで駆け抜けたゴブリンから優先的に治癒するので、助かる見込みを増やそうと必死だ。


「手足を狙っても無理です。なので首を狙います」


 腕で隠せない僅かな隙間、首元を狙ってダイナは発砲し命中させた。

 大動脈を撃ち抜かれたホブゴブリンは流石に走れず後ろに倒れて絶命した。


「手足以外を狙って突進不能にするのが基本です」

「なるほどな。なら俺も」


 田村二尉は右手に石斧を振りかぶりながら迫ってくる、もう一体のホブゴブリンに狙いを付けた。


「あ、二尉、腹は狙わない方が」


 ダイナが注意したが二尉は発砲した。

 訓練通り、腹をねらって発砲し命中させた。


「ぐあうっ」


 腹部を、内臓が集中する箇所に命中したためホブゴブリンは悲鳴を上げ、反射的に殻を抱えるようにうずくまる。

 その瞬間あまりの痛みに右手を振り石斧を放した。放り投げられた石斧は空中へ放たれ、田村二尉の元へ向かった。


「げっ!」


 突然の事に二尉は驚いて動けない。だが、ライリーが剣を振って弾き飛ばした。


「大丈夫?」

「あ、ありがとう。助かった」


 尋ねてくるライリーに田村二尉はお礼を言う。


「射撃訓練で腹を狙って撃つように指導されているんでしょうが、棍棒とか持っているときは、頭や首を狙った方が良いですよ。経験則ですが、今みたいに撃たれた瞬間、放り投げてくる奴がいますから」


 ダイナは撃ちながら説明する。

 自衛隊の射撃場では近接戦闘になった時は腹を撃つように指導されている。

 一応、人間と戦う事を想定している自衛隊のため、相手も同じレベルの武器、自動小銃を装備していると考えている。

 もし小銃を構えて突撃してくる兵士の頭を打つと、衝撃で身体が仰け反り、銃口を向けてきた瞬間、指に力が入り発砲してきて倒した当人や味方が危険に曝される。

 だが腹部なら反射的に腹を庇うため、小銃を抱え込むので撃たれる心配はない。だから腹部を狙って撃つように指導される。

 しかし、棍棒などの打撃系の武器を掲げて突進してくるモンスター相手には撃たれた瞬間投げてくるので悪手だ。

 特にホブゴブリンほどになると筋力もあり十数キロ、時に数十キロもある鈍器を投げてくることがあり危険だ。

 なのでダイナ達はモンスターを相手にするときはできる限りヘッドショット、腕などで庇われている場合でも、クビなどなるべく上の方を狙うようにしていた。


「肝に銘じておくよ」

「ええ、生き残ってください。一人でもかけると厳しい」


 百以上のゴブリンが迫ってきてた。

 ダイナ達は弾薬節約のためセミオートで狙いを付けながら撃っている。

 命中率が一パーセント未満とされる乱戦の中での射撃だが、彼らは七割以上の命中率を叩き出し、ゴブリンを寄せ付けない。


「数が多すぎる」


 だが、やってくるゴブリンの数が多すぎ、数を頼りに徐々にダイナ達に迫ってくる。


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