監視拠点で朝食を
「いや、同情でしょうね」
ダイナは少し考えてから答えた。
「同情?」
「一つ下の女の子が魔王というとんでもない化け物を相手に戦うんですよ。素質があってもしんどいですよ」
新門戦争、その初期に門の出現、モンスターの襲撃という危機に遭遇したとき、生き延びるためダイナには銃を取る以外の選択肢はなかった。
自衛隊に元から所属していた者を除き、死んだ仲間も同じく門の出現で銃を取った同志だった。
ライリーも魔王という脅威に対して、勇者としての力、自分の素質で戦う以外に選択肢がなかった。
ライリーが気がつかないだけで、他にも有ったかもしれないが周りから進められてきた。
その姿は、かつて無理矢理受験させられたかつてのダイナを思い出させた。
わだかまりはあっても、苦しんでいる女の子に手助けしたくなるのも仕方なかった。
「それに、こんなに懐かれると振り払うのは良心の呵責が」
抱きついてくるライリーの頭を撫でながらダイナは言う。
心根が素直という事もあり、自分に好意を持ってくれることに応えたい、という思いもあった。
流石に勇者のお供は大変なので内容は選ぶが。
「まあ、出来る範囲で手助けしますよ。だから、そんなにしがみつかなくたって大丈夫だよライリー」
狸寝入りをしていたライリーにダイナは声をかけた。
「アイリも起きているんだろう。そろそろ朝食にしようか。少しは美味しい物を作るよ」
ダイナは朝食の準備を始めた。
見張交代の時、予め水に浸けておいた米を取り出し、飯ごうに入れバーナーで炊き上げる。
蒸らしている間にサンマの蒲焼き缶を湯煎して温めておく。
炊き上がった米の飯の上に缶を開けて温かくサラサラになったタレをタップリと注ぐ。
蒲焼きの身は箸でほぐして、飯と一緒によくかき混ぜる。
「サンマ蒲焼きのひつまぶしもどき完成」
ダイナは嬉しそうに言うと、ひつまぶしもどき全体を四等分に切り分け、そのうちの一つを四人の飯ごうに盛った。
「まずは一つめ。そのまま食べてくれ」
盛られた飯を三人はそれぞれ口に入れる。
「美味しい」
「相変わらず良いわね」
「温かいタレと飯の相性が良く混ざり合って食欲をそそる。絶品だ」
好評のようでダイナは安心した。田村二尉など感動して食レポを始めるくらいだった。
「じゃあ、次行きましょう」
分けた内の一つに唐辛子を振りかけ、混ぜ合わせると四人で分ける。
「ピリッとくる」
「唐辛子とは珍しいわね」
「先ほどの甘いタレの後で辛さがくる唐辛子が混ざることで新たな味となって驚きを与える。しかも唐辛子がきいていて食欲を更にそそる」
このひつまぶしの良いところは、薬味を切り替えることで様々な味に変えることが出来る事だ。
今回は七味唐辛子を入れてみたが好評だったようだ。
「よし、次いこうか」
ダイナは残りに海苔と乾燥ネギ、わさびを入れて混ぜ合わせ、半分に切り分けるとそれを更に四人で分ける。
「うーっ、ツーンとくる」
「やっぱり、これが美味しいわよね」
「わさびの辛みでしたがりセットされ、海苔の香りが風味をマシ、ネギがアクセントとなる。これは絶品だ」
本家のひつまぶしに使われる薬味だ。これが一番美味しいとダイナも思う。
最後は残った、ひつまぶしにパックのお吸い物を入れ、お湯をかけておじやにして食べる。
「あー暖かい」
「身体が温まるわ」
「出汁のお陰で味が更に変わり、変化が生じる。少々、味が薄いが、ふやけたご飯が食べやすく、スッと胃の中に入って行く」
田村二尉も喜んでくれたようだ。
ご飯やタレが付いた食器を洗うのにも楽なので、締めにはお味屋にして食べることが多い。キッチンペーパーなどがあれば、片付けも楽だ。
「しかし、大丈夫なのか」
食事が終わると田村二尉が尋ねてきた。
「食べた後に言うのもなんなんだが、ゴブリンに見つからないか?」
夕食は出来るだけ匂いを悟られないように隠れるように食べていた。
だが朝食は、念入りに米から炊いて作って、ゆっくり食べている。
ゴブリンに気付かれる恐れがある。
「良いんですよ」
ダイナは小銃を取ると田代二尉に向かって銃口を向け、引き金を引いた。
弾は田代二尉の横をかすめ、近づいてきたゴブリンの額に命中した。
「ゴブリンをおびき寄せるための餌でもあるので」
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