ダイナとライリーの出会い

「……はあ?」


 ライリーと戦った、それも殺し合いをした。

 思いがけない言葉に田村二尉は戸惑った。


「まさか、魔王を共に討伐したんだろう」

「ええ、ですが初めて会ったときは、互いに殺そうとしていましたよ」

「何で?」

「戦争がどうして起こったか分かりますよね」

「魔王がこの異世界に門を作りやってきたのだろう。しかしこの世界で劣勢になり新たに地球、日本へも門を開こうとした」

「ええ、つまり、双方とも、門の先にいるのは魔王軍だと思ったわけです。自分達以外は魔王軍。そんな状況で接触したらどうなるでしょう」


 ダイナの言葉に田村二尉は、はっとした。

 確かに自分たち以外は敵だと考えているとき、他に味方がいるとは考えられない。

 そんな両者が鉢合わせしたら、即戦闘になってもおかしくない。


「魔王軍をたたきのめそうと意気込んでいましたからね。出会った瞬間、銃火を交えることになりましたよ」


 ダイナは、強く服を握りしめるライリーを撫でつつ思い出しながら語った。


「最初にあったのは偵察隊にいたときです。十二名ほどでしたか。いつものようにモンスターの群れを探して行動していました。そんなとき、ライリーと会いました」


 彼女らも魔王を討伐するためにやってきていて、互いに魔王軍だと思って戦闘になった。


「後方を歩いていたシーカー、村井という二曹でした。奇襲され、一撃で、剣で身体を両断され倒されました。すぐに後方へ銃撃を加えましたが、捕捉出来ず、次々と倒されます。当時の隊長もやられ、副長だった御代三佐が指揮を代行しました。ですが劣勢でした」

「味方だと、人類気が付かなかったのか」

「魔王軍以外の勢力がいることなど友好的に接触できるか分からない状況でした。なにより、こんな少女が次々と自分達を、皆腕に自信があり、信頼できる頼もしい連中を倒すんですよ。魔物、正真正銘のモンスターとしか思えませんでした」 


 全員、モンスター狩りで鍛え上げられ戦果も上げていた部隊だった。

 なのにたった一人に蹂躙されるのは恐怖以外何物でもない。


「弾幕を張りつつ牽制するのがやっと。航空支援を要請して吹き飛ばしましたがライリーは生き残りしかも攻撃してくるんですよ。本当に恐怖ですよ。しかもあの御代三佐さえ負傷しました」


 部隊は指揮系統が混乱し更に損害が出て壊滅状態。


「生き残って動ける俺が前に出て止めに入りました。でも勇者を倒すなんて無理ですから弾幕で牽制したり白燐手榴弾を投げて煙幕を張って視界を遮ったり、トラップを仕掛けたり、妨害するのが精一杯です。ありとあらゆる方法を使いましたが、止める事は出来ませんでした」


 倒すのが無理なら、攻撃できないよう、視界を奪ったり、不利な方向へ誘導する程度しか出来ない。

 そうやってダイナは味方の撤退を援護した。

 それだけでも大した物だと田代は思った。


「ようやく味方が駆けつけて私は後退できましたが、一瞬だけでした」

「どうしてだ?」

「駆けつけてくれた一個中隊が一撃で壊滅しましたから」


 ライリーの放った破壊魔法で、普通科一個中隊百名ほどが壊滅した。

 一瞬で。

 勇者の強さに一個中隊に匹敵する戦力とあるのはそのためだ。


「そのあと特科の支援砲撃や、戦車を投入しても次々切り裂かれていくんです。まったく酷いものでしたよ。結局一個連隊壊滅しました」


 たった一人に自衛隊の部隊が壊滅させられ後退する羽目になったのだ。


「私も取り残されましてね。死ぬかと思った」

「よく助かったな」

「ライリーが助けてくれたんですよ」


 慌てて逃げ出した味方においてかれ、襲撃を受けた野戦病院からボロボロになったダイナが倒れている所にやってきたのがライリーだった。

 銃を構えるだけで精一杯だったダイナはそのまま気絶し、気が付いたらライリーに助けられていた。


「そこでようやく、彼らにとって魔王軍が共通の敵であると分かったんです。それ以降は共同で戦うようになりました」

「そんな事が……知らなかった」

「機密になっていますからね。今後現地の勢力と友好関係を結ぶためにも秘匿されました」

「話して良いのか?」

「他言されたら困りますね」


 ダイナが肩をすくめて言う。


「だが、その後はともに戦ったんだろう。魔王も倒したんだろう」

「まあ、そうなんですが」


 ライリーとダイナ達はともに戦い、魔王を倒す事に成功した。


「ですが、最初の印象が。流石にあんなことがあっては、何事もなかったかのように接することなんて出来ませんよ。まあ、単純に怖いんですよ。今でも」


 苦楽をともにした仲間が、多くの困難を力を合わせて乗り越えてきた部隊が目の前で消え去ったのは、衝撃だった。

 特に戦争前に、いじめを受けて不登校だったダイナにとって、命を預けられるほど、運命共同体となった部隊、いや仲間の存在は大きく、喪失感も大きかった。

 ライリーへの警戒心を抱いても仕方なかった。


「でも、手助けするんだね」

「そりゃ一つ下の女の子ですからね」

「好きなのかい?」

 

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