ダイナに懐くライリー
「ううん……」
突如見張っていた二人の間に寝床からライリーが起き上がって歩いてきた。
寝ぼけているのか、唸るような声を上げ周りをキョロキョロと見渡しダイナを見つけると寄ってきて抱き付いてしまった。
「おい、ライリー」
抱き付かれていたら監視が出来ないのでダイナは払おうとする。
「ふみゅう~」
だが幸せそうな声を上げられると引き離すのはためらわれる。
ダイナは溜息を吐くと払うのを止めた。
それどころか、寝顔が可愛くてつい頭に手で撫でてしまう。
「ふひい~」
撫でられると更に嬉しそうな顔になり、声を上げる。
可愛くて田村二尉も見とれるくらいだ。
「勇者とは戦争からの付き合いなのか?」
「……ええ、何度か戦った事があります」
「気に入られているんだな」
「まあ、何故か分かりませんが」
ダイナはライリーを起こさないように肩をすくめながら答えた。
困った可愛い妹を持つ妹思いの兄のように見える。
見ていて微笑ましい二人だ。
だからこそ田村二尉は違和感を抱いた。
「苦手なように見えるが」
仲が良いのなら、新門市で冒険者をやるのではなく自衛隊に残っただろう。御代三佐が苦手であれば、異世界で冒険者をやっても良いはずだ。
だが、ダイナはそれを選ばなかった。
勇者と共に行動できるなど早々ない。
ゲームや小説などでは勇者はありふれた存在だが、数十万人に一人という逸材だ。
ストーンゴーレムを倒し、時にドラゴンをも倒す。
そして、ライリーはかつて魔王を倒した事がある。
そんな強い勇者と行動すれば、小説やゲームのように多くの依頼をこなし、巨万の富を得ることが出来るだろう。
なのにダイナは、それをやっていない。
ダイナは少し考えてから答えた。
「レベルが違いすぎますから」
一般人と勇者では身体能力が根本から違う。
人が数日かかる道のりを一日か半日で駆け抜けることが出来るし、非妻のようにストーンゴーレムを剣一つでたたき切ることが出来る。
そんな勇者と行動するのは難しいだろう。
「それに、一つ年下の女の子に助けられるのは男のプライドがどうも」
「それはないだろう」
田村二尉は言った。
確かにレベルが違いすぎると劣等感を抱く。ダイナは実戦経験が豊富だが多感な思春期の少年であり、人と比べる事が多い年齢だ。一つ下でしかない少女が自分より強いことなど認められない。
通常なら。
「普通に付いていけるように見えるし、ダイナなら能力の差など気にはしないだろう」
だが、良くも悪くも実戦を経験した、究極のリアリストであるダイナはその程度の事など気にかけない。
むしろ卓越した能力を利用、いや活用することを考える。
それに勇者といえど完璧ではない。
欠点がある部分、幼いが為に思考が追いつかず見落とす箇所が多い。
そこをダイナが知識と経験から補っている。
「でなければそこまで懐かないハズじゃ」
子供は以外と人をよく見る。
自分に良い人間なのか本能で感じ取る。
大人の場合でも使えないと判断すれば、利益になる肩書きが無い限り、その人の元を去って行くのと同じだ。
「でもダイナは、苦手そうなんだが、何かあったのか? いや話したくなければ良いんだけど」
ダイナは、抱きつく力が強くなったライリーを優しく撫でた後考えを纏めるため見上げてぽつりと呟き始めた。
「新門戦争の事は? どんな経過か知っていますか?」
「ああ知っている、魔王が門を作り出して魔族が日本に攻め込んきた。押し返して門から逆に攻め込んで異世界の勇者達と協力して魔王を倒した」
「やっぱりそうなっていますか」
「違うのか?」
「ええ、私は門へ突入した部隊にいましたから」
「いたのか」
「ええ、志願しました。一方的にやられるのはしゃくだったのでモンスター退治だと思って門を抜けました。そして魔族を銃で殺していきました。仲間の敵討ちと言って。そうやって戦っている内に、ライリーと会い戦いました」
「それなら問題は無いだろう」
「? ああ、違いますよ」
田村二尉の勘違いに気がつき、ダイナは訂正する。
「共に戦ったという意味ではありません」
「? どういうことだ」
「戦ったのは本当ですが、戦う相手として殺し合いをしたんですよ。俺とライリーは」
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