監視拠点

 ダイナ達がいるのはゴブリンの勢力圏まっただ中なので、発見されることは出来るだけ避けたい。

 そのため、火をおこすこともなるべく避ける。だが、温かい食事は食べたい。

 贅沢ではなく、温かい食べ物が活力になるからだ。

 冷たい食べ物を食べると体温が奪われ元気がなくなる。

 元気がなくなると、判断力が低下し、重大な場面で敗北に繋がる決断を下して仕舞うかもしれない。それを防ぐためにも、出来るだけ体力が温存出来る手立てを打つことが必要だ。

 匂いが立ちこめるが多少は仕方ない。手早く済ませて終わらせることで対処する。

 ダイナはレーションと生石灰を使った加熱キット取り出し、レーションをキットの中に入れて水を入れて消石灰を加熱。

 火傷するほど熱くなったキットで糧食を温め、封を切り手早く食べる。

 ゴブリンは鼻が良いのでできる限り匂いの発生は抑えたい。

 素早く食べ終えると、わかしたほうじ茶を、食べたパックの中に入れて飲む。こうやって簡単に洗って片付けるのだ。。

 レトルトパックなので缶詰と違い、ハックは小さく畳める。お陰でゴミを最小限に抑えられた。

 食事が終わると、交代で警戒しつつ睡眠を取る。

 疲れた状態で戦うなど負ける第一歩だ。眠れるときに眠るのが義務だ。

 休みもなる暇も無く働くなど愚かなことだ。

 十分に睡眠と休憩を取ることで翌日、十二分に動けるようにするのだ。

 最初にダイナと田村二尉が眠り、ライリーとアイリが周辺の警戒と監視を行った。


「ふう、よく寝た」


 日付が変わった頃、ダイナが起き上がった。

 落ち葉の上にパラシュートの布を敷き、ポンチョで包まっただけだが、地面からの冷気を遮断――地面は意外なほど冷たく体力を奪うので落ち葉などで断熱した効果もありいよく眠れた。

 田代二尉も起き上がり、見張り交代の準備をする。


「ねえねえ、何かお話ししよう」

「疲れているだろう早く寝るんだ」

「えー、何かお話しようよ」

「暫くは碌に休めなくなるから今のうちに休んでおくんだ。この仕事が終わったら話をしよう」

「約束だよ」


 ライリーはそう言うとアイリと一緒にダイナ達が使っていた寝床に入る。

 横になったのを見届けたダイナは周辺の偵察と罠の確認を行い、キャンプの安全を確かめる。

 ほんの十分程度で戻ってきたが、あれだけ言ったのにライリーは寝床でアイリとおしゃべりをしている。

 しかし、疲れていたのか五分もすると寝息が聞こえてきた。

 アイリに抱き付いて寝ているのライリーを見てダイナは、アイリと共に苦笑する。

 やがて、アイリも眠りに付いた。

 再び周囲を確認すると、ダイナは田村二尉と共に目標の街道沿いにある町、いや、元町である廃墟を望遠レンズで確認する。


「やっぱりゴブリンが多いですね」


 赤外線サーモ処理された画像越しに見る町はゴブリンに侵略され占拠されている。

 盗賊よけかモンスターよけか――恐らく両方の為に城壁で町は守られていた。

 だが、その城壁も各所が破壊され、ゴブリンが出入りしている。

 通常のゴブリンも数が多いがホブゴブリンの数も多く、突然変異が激しく起きているようで強力な上位種が多い感じだ。

 城壁が破壊されたのも上位種が破壊したからだろう。普通のゴブリンに城壁を破壊できるほどの力はない。

 城壁など周囲の塔ごと破壊されており、住民は襲撃を受けたとき、なすすべもなかっただろう。


「こんなに見ていてゴブリンに見つからないか?」


 見つからないか田村二尉は心配してきた。


「連中は目が良いし夜目も利くんだろう」


 ゴブリンを侮らないのは良い傾向だった。

 ゲームに出てくる雑魚キャラの代名詞であり、この現実世界でもそれは変わらない。

 子供程度の知能と体力しかなく簡単に潰せる。

 一対一なら勝てるし銃があれば楽勝だ。

 だがゲームと違い現実は厳しい。時折はぐれたゴブリンを相手にする以外は大概、連中は群れで行動する。一人で対応するなど不可能。

 人間も集団で相手をする必要がある。

 そして今いるのは四人だけ。ゴブリンは確認しただけで数百はいそうだ。

 まして上位種がいる中、少人数で相手をするなど自殺行為だ。

 田村二尉の心配は杞憂とは言えない。

 だが、ダイナは安心させるように言う。


「大丈夫ですよ。さすがにゴブリンでも一キロ以上離れた森の奥から望遠カメラで監視されていることは気づきませんよ」


 いくら目や鼻がよくてもこれだけ離れていたら見つからない。

 降下の時に目撃されているかもしれないが、今のところ発見された様子もなかった。

 夜は夜行性のゴブリンの時間で街道沿いにゴブリンの移動が確認されているが、こっちに向かってくる様子もない。

 まだ暫くは安全そうだ。

 監視の記録を付けると、ダイナは休憩に入った。

 食事の時に作ったほうじ茶を魔法瓶から取り出し一息つく。田村二尉にも汲んで渡した。


「ゴブリン王はあそこにいると思うか?」


 茶飲み話がてら田村二尉はダイナに尋ねた。


「十中八九いると思いますね」


 ゴブリンの数と上位種の数が異常だ。

 何より、城門の破壊の痕跡。アレはホブゴブリンが集団で襲い掛かっても不可能だ。

 ゴブリン王が破壊したと考えるべきだ。

 出入りも激しく、街道を歩く集団が多い。近隣の村を襲撃したり、勢力地を広げたり連絡の為に各地へ散らばっているのだろう。

 それでも多くは町に残っているし、山の方から、ゴブリン達が出現されたとされる地域からやってくるゴブリンの集団が多い。

 町の食糧が豊富、このあたりの村の産物が集まる中心地のようだったし、備蓄された食糧以外にも食べ物があるのだろう。

 かつての人間の町が今はゴブリンの拠点となってしまっていた。

 ゴブリンの数と行動を見ても、あそこにゴブリン王がいるとみて良い。


「姿が見えないので、確定は出来ませんが報告はしてあります」


 だが姿を見たわけではないので先の報告でも断言は避けている。

 しかしダイナも御代もあそこにいると考えていた。

 だから色々と考えている。


「それでいると仮定してどんな風に攻撃するんだ?」

「ああ、それは」


 田村二尉の質問に答えようとしたダイナだったが、寝ていたライリーがいつの間にか近づいてきた。


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