HALO

「降下! 降下! 降下!」


 機長の号令と共にダイナは真っ先にC-1から飛び降りた。

 振り返ると続いてライリーを抱えたアイリ、そして田村二尉が続く。

 僅か数秒でダイナ達が飛び出したC-1は、みるみるうちに小さくなる。

 C-1はダイナ達が降下したことを欺瞞する為に暫く直線に飛行しそれから引き返す予定だ。

 だが急激に針路を変更していないにも関わらず、落下のスピードが速いため、C-1は急速に離れて行き、あっという間に小さくなる。

 ダイナは、地上に目を戻し、街道と町、そして森の位置とゴーグルに写るディスプレイでGPS情報げ現在位置と目標地点を確認する。

 予定されているポイントと大きく外れていない。

 降下予定の森と平野の境目付近へ急速に降りて行く。

 高度計の目盛りが六千、五千、四千と急速に減少していく。

 だがパラシュートは、まだ開かない。

 出来るだけゴブリンに見つからないようにするためだ。

 機体が見えないように一万メートルの高度を飛行したのはそのためだ。

 降下後、すぐにパラシュートを開かず、急降下するのも開いたパラシュートが見られる時間を短くするべく低空で開き滞空時間を短くするためだ。

 三千、二千、千を割り込んでもまだ開かない。

 だが両手両脚を広げ、落下のスピードを落とす。

 五〇〇。

 ようやくパラシュートを開く。灰色の四角いパラシュートが開き、急速に減速する。

 手早く操作用のハンドルを握り、降下予定地点へ向かう。

 アイリとライリーの組も、そして田村二尉のパラシュートも開き降下していく。

 やはりタンデムで飛んでいるアイリとライリーの方が降下が早い。

 先に降りると、ダイナはパラシュートを操作して、二人の近くへ降りる。

 田村二尉も近くに降りてきた。

 地上に降りると手早く、パラシュートを地上に降ろして畳む。

 発見されないようにするためだ。

 薄いパラシュートだが、大きいので結構かさばる。


「潜伏予定地点へ急げ!」

「了解!」


 田村二尉の指示、予め予定していた行動を取る。

 四人は素早く森の中へ、隠れていった。

 周囲を見渡して目標となる街を監視出来て潜伏するのに良さそうな場所を探し出す。

 好都合な場所に丁度倒木があって壁に出来そうな場所を見つける。


「ここにテントを張ろう」


 ダイナが指示すると、アイリとライリーが倒木の間にパラシュートを広げて屋根にしてテント代わりにする。


「お泊まり、お泊まり」


 ライリーが喜々としてパラシュートの布地を広げ重ねてゆき、周囲に木や岩を重しにして屋根を作る。

 さらに周囲の枝や木の葉を被せ、カモフラージュにして見つかりにくする。


「完成―っ」


 作業が終わると今夜の寝床が出来てライリーは大はしゃぎする。


「終わったようだね」


 ライリー達の作業が終わったとき、田村二尉と共に周辺の偵察と警戒装置を設置していたダイナが戻ってきた。


「さて、夕食を食べて休もうか。行動開始は明日の夜明け頃だ」


 ゴブリンは夜行性であり、昼間は寝ている。夕方は、ゴブリンにとって人間の明け方だ。

 人間は午前二時頃から午前四時頃が一番集中力がきれやすい時間帯であり、奇襲などを行うとき攻撃開始時間に指定される事が多い。

 夕暮れに降下したのは出来るだけゴブリンに見つからないようにするため、ゴブリンの認知能力が低下する時間帯を狙っての事だ。

 そのために今回の行動予定を組んでいた。


「で夕食はなに?」


 目を輝かせながらライリーが聞いてきた。

 山登りで自炊を覚えたダイナは相応に料理を作るのが上手い。

 料理が美味いかどうかで、

 ライリーがダイナと一緒に行動したがるのは料理も楽しみにしているからだ。


「時間が無いから糧食二型。メニューはご飯にハンバーグと沢庵」

「えーっ、ダイナが作ってくれないの?」

「敵地の前だし、時間もない。もうすぐゴブリンも活動する時間だからね」


 日が暮れた後はゴブリンが動き出す時間だ。

 しかも嗅覚が優れるので食事の匂いを嗅ぎつけ、この潜伏場所が見つかる恐れがある。


「こっちも移動で疲れたし、今晩はゆっくり休んで明日は早朝から活動開始だ」

「むーっ」


 期待していたご飯が食べられずライリーは頬を膨らませる。


「そう怒るな。明日の朝食は美味しものを食べさせてやるから」

「約束だよ」


 期待に満ちた瞳でダイナを見てライリーは言った。

 仕方ないと思いつつ、ダイナ達は夕食の支度を始めた。

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