C-1輸送機
「手回しが良いことだな」
旧式になったC-1の貨物室内でダイナは愚痴を言った。
門が開いたことにより運び込まれた機材の一つだ。
最新型のC-2だと失ったとき勿体ないので、航続距離もペイロードも小さいが、失っても惜しくないC-1が異世界に投入されている。
古い機体だが未だに飛んでいた。
現在飛んでいるのは一万メートルの空。
常識外れのモンスター達が跋扈している世界でもさすがに子の空を飛べるモンスターはおらず、安全が確保されていた。
「はじめから仕組んでいたんだな」
「そうよ」
ダイナの言葉を横にいるアイリが肯定した。
いくら旧式とはいえ飛行機を飛ばすには事前申請が、それも飛行前にいくつもの調整が必要だ。
日本以外に異世界の空を飛ぶ航空機は存在しないが、飛ばす為の準備、燃料補給や事前の整備点検が必要であり、時間がかかる。
依頼してその日のうちに飛ぶなど、予め受けると予想していないと無理だ。
しかも隊長も同じ位置にゴブリン王がいると予測していたに違いない。
掌の上で踊らされたようでダイナはなんとも不愉快な気分になった。
特に気の毒なのは、反対側に座る田村二尉だ。
近くにいたと言う理由から三人と共に降下しろと御代に言われて付き合わされている。
名目上の指揮官だが、名ばかりの状態なので気の毒だ。本人もそれを自覚しているだけに気の毒だ。大人しく言うことを聞いて此方のやる事を邪魔しない分、動きやすいのは、ありがたいが。
ただ、今後指揮官としての職務を全うするには、得がたい経験になるだろう。
アイリとダイナが田村二尉の軍曹役となりお守りをすれば大丈夫だと御代隊長は考えているのだろうが。
「ブートキャンプに入る前の準備運動には丁度良い」
とか言っていたが、実戦が準備運動など、サッカーの試合の前にフルマロソンやらせるようなものだ。
田村二尉が気の毒でならない。
「わあっ! すごいっ! 建物も森もあんなに小さい!」
一人はしゃいでいるのは、ダイナとアイリの間にいるライリーだ。
何度か利用したことがあっても珍しいのだろう。
ダイナもアイリも幼い頃から国内旅行と海外旅行で飛行機に年に二回くらいは乗っており、特別な思いはない。
それに背中の荷物の重みで殆ど動けないのなら尚更だ。
「わあっ! 太陽が沈んでいく。綺麗……」
ただ、はしゃぐライリーを見ていると和む。
丁度夕暮れの時間と言うこともあり日が沈む光景が見えて良いのだろう。
「もうすぐ目標地点だ! 準備してくれ」
機長がダイナ達に伝えた。
「降下用意!」
田村二尉が号令をかけると全員酸素マスクを着用した。
アイリは自分のマスクをチェックするとライリーの装着を行い確認する。
続いて、ダイナがアイリとライリーの留め金を確認する。
異常がないか確認すると田村二尉と互いに装備の確認を行った。
全て終わると、機長に合図を送り、減圧が始まる。
「ううっ……耳が変」
「唾を飲み込んで」
気圧の低下で耳の中の空気が膨張している。高層ビルのエレベーターの中などで耳が変な感じになるときと同じだ。こういうときは唾を飲めば鼻と耳の間の弁が開いて空気が通り、おかしくなくなる。
「うん直った」
無事にライリーは通じたようだ。
通じなかったら、空気が抜けず鼓膜が破れる事さえあるから馬鹿に出来ない。
気圧が十分の一になる高度一万メートルでは、内側から〇.九気圧の既達がかかるのと同じで、非常に危険だ。
「ありがとダイナ」
屈託のない笑みをライリーは向けてきて、ダイナは少し照れて顔を背けた。
「カーゴハッチを開けるぞ!」
機長の声と共に目の前のハッチが開いた。
黄昏時の昼から夜の間にある色鮮やかな空が目の前に広がる。
ダイナ達は、ゆっくりと装備を引きずりながらハッチに近づく。
眼下には、雲の隙間から大地が見えた。
まるでグーグルアー○で見ているようだ。
だが、サイトと違うのは地平線が見えることだ。
ダイナはこの景色が好きだった。
飛行機に乗ったことがあるが、客席の小さな窓と違い、視界いっぱいに広がる雄大で幻想的な空、ヘリよりも遙か高い空の景色にはいつも圧倒される。
だが、それも数秒の間だけの楽しみだ。
降下地点に到着し、機長から降下の合図が出た。
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